
Tokyo手土産スイーツ
吉原由香里[囲碁棋士]
岩下尚史[作家]
甘味を手土産にすると思わず会話がはずみます。伝統文化の世界で活躍する3人の方に、「いただいてうれしい」&「さしあげて喜ばれる」東京のお菓子について、お話をうかがいました。
[取材・構成:中村さやか]
「オザワ洋菓子店 イチゴシャンデ」

歌舞伎俳優
2、3年ほど前でしたか、お客様が楽屋に届けてくださって知ったお菓子です。僕自身はまだ店舗に伺ったことはないのですが、無性に食べたくなったときに、うちの事務所の方にお願いして買いに行ってもらっています。
元々僕は生クリームが大好き。特にシンプルに使ったものが好きなんです。イチゴシャンデも、土台のクッキーの上にイチゴと生クリームをのせて、チョコをかけたシンプルなもの。生クリームをチョコレートでコーティングしておいしくないわけがないですよね。僕はチョコも好きですので、これは「好きなものの複合体」です。
昔、自分でスイーツを作っていた時期がありまして、スポンジ生地から焼いてショートケーキを手作りしたこともありました。生クリームを立てるのって、実は難しいんだなと思いました。ちゃんとケーキとして形になるような固さにすることに、苦労した覚えがあります。

[所在地]東京都文京区本郷3-22-9
[アクセス]都営大江戸線・東京メトロ丸ノ内線「本郷三丁目」駅 徒歩7分
[TEL]03-3815-9554
[営業時間/定休日]9:40~19:30(土は18:30まで)/日・祝日
「銀座千疋屋 デラックスゼリー」

僕らは歌舞伎で大役をつとめることになりましたら、必ず先輩から個別にお稽古をつけていただきますので、その際に手土産を持ってお伺いすることがあります。歌舞伎以外でも、友人が出演する舞台や稽古場への差し入れに、千疋屋さんなら間違いないですよね。
おもたせにするものは、まず自分がおいしいと思うかどうか。デラックスゼリーは、単純に自分が好きだから、その方にも食べていただきたいというスイーツです。
僕は20歳まで銀座に住んでいましたので、祖母に連れられてお茶をしにいくことも、自分で千疋屋さんに行くことも、よくありました。おもたせに千疋屋さんを、というのは、なんだか懐かしい気持ちになるからかも知れません。
グレープフルーツもいただきましたが、個人的にはオレンジの方が好みです。このゼリーは果物そのもののおいしさが味わえますし、なにより果物を丸ごと容器に使ったこの見栄えがいいですよね。
公演で各地に行くと、その土地の名物を使ったスイーツに出会いますが、東京はなんでもそろうだけに、名物を主軸にしたスイーツを考えるのが難しいのではないかなって。そういう意味では、東京は有利なようで不利なところがある。どこのどんな食材も大体は手に入りますから、作り手さんは大変だろうなと思います。ですが、うまくいくと世界的にも類のないものが生まれる可能性もある。それが、東京のスイーツの魅力かもしれないですね。

銀座本店フルーツショップ
[所在地]東京都中央区銀座5-5-1
[アクセス]東京メトロ日比谷線・銀座線・丸ノ内線「銀座」駅 B5出口すぐ
[TEL]03-3572-0101
[営業時間/定休日]10:00〜20:00(日・祝日は11:00~18:00)/年末年始
[公式サイト]
https://ginza-sembikiya.jp/
おのえ・まつや/歌舞伎俳優。1985年東京生まれ。屋号は音羽屋。1990年、二代目尾上松也の名で初舞台を踏む。2009年からは歌舞伎自主公演「挑む」を主宰。時代物の大役から、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」ユパ役まで、幅広い役を演じる。ミュージカルやドラマにも多数出演。
「西光亭 くるみのクッキー」

囲碁棋士
5年ほど前でしょうか、ファンの方に頂いたんです。箱に描かれたリスの絵に、かわいい! とテンションが上がりました。女性ならみんな心華やぐと思います。クッキーにまぶされた粉糖の量も印象的で、食べてみるとすごくおいしい。クルミの風味とほどよい甘さ、食感も軽いんです。見た目が碁石に似てる? それは全然考えなかったです(笑)。でも、コロコロしていてかわいいですよね。
箱は「ありがとう」「お疲れ様でした」などとメッセージや季節の絵柄がいろいろ選べるので、つい先日も囲碁教室の生徒さんとスタッフへのおもたせに使いました。対局にはすごくメンタル面が影響します。気分のアップダウンが激しいと疲れてしまうので、日常もフラットでありたいんです。そういう意味ではこのかわいい絵柄を目にするのも、日々心地よく過ごすための一助になっていると思いますね。

[所在地]東京都渋谷区上原2-30-3
※松屋銀座、伊勢丹新宿店、羽田空港第1・2旅客ターミナルなどでも販売
[アクセス]小田急線・東京メトロ千代田線「代々木上原」駅 徒歩10分
[TEL]03-3468-2178
[営業時間/定休日]11:00~19:00/無休
[公式サイト]https://www.seikotei.jp/
「トップス チョコレートケーキ」

お世話になっている年配の方から、このチョコレートケーキが大好きと聞いて、時折お持ちしていました。私も、覚えていないくらい昔から食べています。老舗の長く愛される商品は見た目も洗練されていますよね。このケーキにもクルミが入っていて、私どうやらナッツが好きみたい。クリームの甘さも、チョコの風味もちょうどいいんです。ミニサイズもあって、夫と息子の3人家族の我が家にはちょうどいい大きさ。無性に食べたくなったときに買って帰ります。
タイトル戦ではお昼ごはんのほかに、おやつが出ることがあります。フルーツを選ぶ人もいるし、ご当地のお菓子が用意されることも。囲碁の普及のために国内外にも行きますが、各地それぞれ美味しいものがありますね。ただ、東京生まれの私には、やっぱり東京のスイーツが口に合います。東京は舌が肥えた方が特に多いですし、競争も激しいので、長く続いているお店のものは間違いないですね。

[所在地]銀座店、大丸東京店、羽田空港第1・2旅客ターミナルなどで販売
[TEL]03-3710-2161(お客様お問い合わせ先)
[公式サイト]
https://www.akasaka-tops.co.jp/
よしはら・ゆかり/囲碁棋士。東京生まれ。6歳で囲碁を始め、1996年棋士に。2013年、六段。囲碁ブームを巻き起こした人気漫画「ヒカルの碁」の監修、NHK大河ドラマ「篤姫」の囲碁指導も担当した。
「東京會舘 マロンシャンテリー」

作家
東京會舘で食事をするときに、決まって頼むデザートでございますね。お土産で頂くこともありまして、生菓子だから、わざわざ取りに行かなきゃいけないところが値打ちなんです。「馳走(ちそう)」って、駆けずり回って、ということでしょう。手間がかかる物を下さったというありがたさがあります。
洋菓子だけど、非常に日本的だと思いましてね。裏ごしした栗を生クリームで包んでいて、おまんじゅうみたいなことでしょう? お茶席のおまんじゅうや、きんとんは、黒文字で切ると中の色が違うことがありますよね。マロンシャンテリーは、外見りゃ「白無垢(むく)」で、中が黄金色ですよ。非常にめでたい感じもするし、清らかな気分にもなります。
おわんを伏せたような寸法が、東京の「丸の内らしい」かたち。20歳のころ、進学のために上京しました。憧れてやってきた東京もずいぶん変わりましたが、あたしが思う「丸の内」は、このマロンシャンテリーなんです。聞いたところによると、1950年ごろに東京會舘の製菓長が考案したお菓子なんですってね。
お菓子や懐石弁当などの料理で一番大事なことは、食べやすいこと。お茶人はそう言うんですよ。こぼれない、つまり着物が汚れないのが大事。マロンシャンテリーも、生クリームで包んであるから崩れないでしょ。クリームと中の栗の比率は、食べやすさもよく考えられていて、こんなに見事な洋菓子ってないですよ。

[所在地]東京都千代田区丸の内3-2-1 東京會館本館1F
[アクセス]東京メトロ千代田線「二重橋前<丸の内>」駅 B5出口直結
[TEL]03-3215-2015
[営業時間/定休日]10:00~20:00/無休
[公式サイト]
https://www.kaikan.co.jp/sweets_gift/index.html
「霊岸島 梅花亭 和菓子詰め合わせ」

梅もなか、三笠山、亜墨利加(あめりか)饅頭……いつも詰め合わせを頼みます。色々入っているとふたを開けた瞬間、かすかなときめきがあるでしょう。「ヒタメン」という小説で、三島由紀夫の恋人だった「貞子さん」の話を書きましたが、梅花亭のおかみさんは貞子さんと同じ慶應女子高の一期生で、お友達。1850(嘉永3)年創業の老舗ですが、全く気取ってなくて、宣伝が下手で、親しみがもてますよ。
花柳界では昔、宴会の後、主催者が招待客にお土産として和菓子を持たせたんです。新橋の古い芸者衆は「お引き菓子」と呼んでいましたけど、お重に詰めて水引をかけた、高級なものでした。梅花亭さんのお菓子は、普段食べて、おいしい、と思うお菓子。番茶や濃く煮出したほうじ茶によく合う、昔ながらの東京のお菓子です。
今は甘さ控えめが好まれる時代だから、このちゃんと甘いお菓子を、あえて若い人に差し入れします。こういうもんが本当のお菓子なんだって、普及しようと思って。甘いといっても吟味された砂糖を使っているので、イヤなところがありません。欧米のお菓子も甘いのが当たり前でしょ。お菓子が甘いっていうのは世界基準です。

[所在地]東京都中央区新川2-1-4
[アクセス]東京メトロ東西線・日比谷線「茅場町」駅 徒歩3分
[TEL]03-3551-4660
[公式サイト]
https://www.baikatei.asia/
いわした・ひさふみ/作家。1961年、熊本県生まれ。2007年、デビュー作「芸者論」で第20回和辻哲郎文化賞。著書に「ヒタメン 三島由紀夫が女に逢う時…」ほか。東京・新橋演舞場に長年勤め、花柳界や伝統文化に精通する。