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「頭に来てもアホとは戦うな!」 示唆に富む元政治家の教訓

頭に来てもアホとは戦うな!―人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法 [著]田村耕太郎

 本の商品寿命は短い。売れない本は1カ月もしないうちに店頭から撤去され、次の新刊が並ぶ。逆に、当初から売り上げ好調となった本は、あらゆる書店で展開され、それがまた売り上げを増やすという好循環に入り、ベストセラーに育っていく(近時だと『漫画 君たちはどう生きるか』)。しかし、この法則にも例外が存在する。初期に注目されなかった本が、1年以上経ってから、長期かつ爆発的に売れてロングセラーとなることがある(近時だと『嫌われる勇気』)。本書は、後者のタイプの「売れてる本」だ。
 元政治家の著者が、いわゆる処世術を説いた本である。
 著者は、証券マン→新聞社の経営者→政治家という特異な経歴を持つ。2002〜10年まで参院議員を務め、その間、09年に自民党を離党し、10年に民主党入りした。当時は、自民党の下野後、自民党現職国会議員の初の離党として騒がれた。
 この手の本は、成功者の自慢話が多い。本書もそういう要素はあるが、もっとも示唆に富むのは失敗話である。政治家としては失敗の連続のマキャベリは近代政治学の祖となった。本書にも「腰軽く陣営を替え」ることのリスクがさらっとではあるが書かれていて、重みがある。
 彼は日本の政治家としては退場したが、現在は、日、米、シンガポール、インド、香港の企業のアドバイザーを務めるなど活躍している。政治、メディア、ベンチャーという浮き沈みの激しい世界で一度は消えたと思いきや、復活を遂げている。
 失敗の教訓は本当に役に立つのか。それは読者それぞれの判断だが、本書が彼のいくつかある著書の中でロングセラーになっているのは、退場してもまた復活している、という経緯を考えれば納得できる。一見、とっつきにくいため、時機をとらえられず、市場から消えても、本質的で尖(とが)ったものがあれば、後に時代が追いつくことで受け入れられる。そんなことも結構あるのだ。
 瀧本哲史(京都大学客員准教授)
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 朝日新聞出版・1404円=19刷18万部 14年7月刊行。著者は63年生まれ。「昨年までは6万部程度だったものの、じわじわと広まり、今年、一気に火がついた」と担当編集者。=朝日新聞2017年12月24日掲載