昔となった「こないだ」、ともに過ごした師友のことなどを書いた、1930年生まれの作家・山田稔さんの最新文集が『こないだ』(編集工房ノア・2160円)。
少年のころから、従兄(いとこ)や姉と手紙のやりとりをした。書く習慣ができ、志賀直哉を読み、「小説とも随筆ともつかぬ散文」が好きになった。そういう著者が、懐かしい人や、読んだ本について書きながら、おのずと関心が向かうのは「文章」だ。
エイズ患者とボランティアのかかわりを描いたレベッカ・ブラウン『体の贈り物』(柴田元幸訳)にはすがすがしさを感じたという。各編の「冒頭の文の簡潔さ、身軽さ、動きのよさのリズムに乗るようにして『私』は病人たちの部屋に入って行く」。
「言ってしまえばごく普通の文章で、そこがいい」と、評した本もある。
哲学者の鶴見俊輔さんに本を送ると、肩の力がぬけているなどと、必ず褒める礼状が届いた。「ピッチャーが速球をほうって、ストライク!という感じがない」と書かれていた時には思わず笑ったという。(石田祐樹)=朝日新聞2018年8月4日掲載
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