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「マンガの神様」を完全コピー!(第93回)

 コミックサイト「e Big Comic 4(イービッグコミックフォー)」で連載中の『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』(手塚治虫・つのがい)を初めて目にしたときは驚いた。手塚治虫の絵柄に「似ている」なんてレベルではなく、本人が描いたとしか思えない。絵だけに留まらず、コマ割りや描き文字まで完璧に再現しているのだ。長年、手塚のアシスタントを務めたマンガ家でも、ここまでそっくりには描けないだろう。

 作者のつのがいはアシスタントどころか、手塚の死後に生まれた20代の若者らしい。単行本収録の「アトガキマンガ」によると、それまで特に絵の勉強をしたこともなく、2015年に突然『ブラック・ジャック』のパロディーを描き始め、ツイッターに投稿。その圧倒的画力により、翌年には手塚プロダクション公式の作画ブレーンにスカウトされた。この経歴にまったく脚色がなければ、作画に関してはまぎれもない天才ということになる。

 手塚治虫のパロディーといえば田中圭一が第一人者だ。2002年に発表された『田中圭一最低漫画全集 神罰』は手塚タッチでシモネタを描くという斬新な手法で話題を呼んだ。とはいえ、あくまで手塚の絵柄ということで、キャラクターまで描いたのはカバー裏に収録された「神は天にいまし 世はすべてこともないわきゃあない」くらい。1999年初出のこの作品は、ブラック・ジャック(以下、BJ)とロック(間久部緑郎)が手塚キャラの登場するギャルゲーをプレーするという短編で、『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』もそれを踏襲したのか、BJとロック、そしてキリコがメーンキャラとなっている。手塚キャラの中でもシリアスで二の線の彼らが、実にしょうもないギャグをやらされるのがポイントだろう。「うぇいうぇい」と軽いロックの「パリピ」キャラも妙に似合っていて違和感がない。

 ほかに登場するのはピノコ、ユリ(キリコの妹)、トロ子(ロックも出演する『ブッキラによろしく!』のヒロイン)、七色いんこなど。「ミドルメンズの章」(日常系ギャグ)、「学ラン・ブルースの章」(学園ギャグ)、「ビンボーレシピの章」(BJの料理教室)などで構成され、ごくまれにハートウォーミングなエピソードもあるが、ほとんどはナンセンスギャグ。ロックに比べればBJの性格に大きな変化はなく、「お前さん」「ナム三!」などの口癖もしつこく再現される。そんな中、主婦や小学生男子の魂がBJの肉体に宿る「もしも目が覚めてブラック・ジャックだったら」はタイトルそのままで笑える。

 ちなみに、自画像は青年のつのがいが実は女性作家というウワサも。田中圭一のようなシモネタに走らないこと、簡単ながら実用的な「ビンボーレシピ」などを見るとそんな気もするが、さて本当はどうなのだろう。