人命救助のため土俵に上がった女性看護師に「下りてください」と要請し物議を醸した相撲協会。力士間の暴力事件も後を絶たない。そんな旧態依然の相撲界に張り手をかますかのような意欲作。
相撲部屋の娘に生まれた桜子は、父が果たせなかった横綱になる夢を抱き、女子相撲世界チャンピオンにまで上り詰めた。が、いくら頑張っても大相撲では女は土俵に上がることすら許されない。ならば、自分の手で横綱を育ててみせる。そこで彼女がスカウトしたのは、大した戦績もない長身ボクサーだった!
太ってナンボの相撲の世界に、減量が必須のボクサーを投入するところがまずユニーク。「デブじゃダメ」「ガリガリこそが横綱になる条件なのよ」という彼女の持論には根拠がある。スポーツ全般器用にこなす元ボクサーの目を通すことで相撲という競技の特殊さが浮き彫りに。わんぱく相撲出身の太っちょ兄弟子との対比も効果的だ。
原作は相撲経験者で、作画担当も相撲好き。連載までには紆余(うよ)曲折あったらしいが、そのぶん練られたキャラと構成が生きている。桜子が繰り出す妙な課題も狙いがわかれば納得。読めばきっと相撲を見る目が変わるだろう。=朝日新聞2019年1月12日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 奈良敏行さん「町の本屋という物語 定有堂書店の43年」インタビュー 「聖地」の息吹はいまも 朝日新聞読書面
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社