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「一人上手」の効能と愉しみ 下重暁子「極上の孤独」

 若者の間では「ぼっち」と称される、孤独状態。この言葉は、「独りぼっちである」という自己の状態を客観視して笑いに換える力を持っています。

 常に「(笑)」とセットになっているのが「ぼっち」であるわけですが、高齢者にとっての孤独問題は、もっと深刻です。自身の退職、子供の独立、配偶者の死去。そのような事態によって急に、そしてほとんど初めて孤独感と相対した時、人はなかなか「孤独(笑)」と捉えることができないのではないか。

 そういえば我が母も、夫を亡くした後、「一人では外でランチもできないの」と、うろたえていました。一人での食事がむしろ好きな娘の私としては、その感覚が全く理解できなかったものでしたっけ。

 自立生活が長い子供には、自分の孤独を理解してもらえない……と、さらなる孤独感を募らせる我が母のような人が、『極上の孤独』の読者ではないかと私は思います。一人暮らしの高齢者が増える今だからこそ、この本は求められているのでしょう。

 八十代となった著者は、意外なことに一人暮らしの経験を持っていません。現在も「つれあい」と共に暮らしつつ、一人の時間を積極的に見つけて活用している一人上手なのです。

 そんな著者が勧める「孤独」だからこそ、私の母のような、高齢となって初めて孤独と出会った“孤独の初心者”も、手が出しやすいのでしょう。上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』もヒットしましたが、あちらは孤独のプロによる、一人で生きるための具体的な策が書かれた書。対して『極上の孤独』は、孤独を直視することすら躊躇(ちゅうちょ)する初心者を対象に、まずは孤独の効能を説くのです。

 本書によって、孤独が怖くなくなった高齢者は、少なくないと思います。高齢者が「(笑)」と共に孤独を愉(たの)しむようになった時、「高齢化」という言葉につきまとうマイナスイメージも、薄れていくのかもしれません。朝日新聞2019年1月19日掲載

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 幻冬舎新書・842円=11刷39万部。18年3月刊行。担当編集者によると、「独りが好きなことは、変なことではない」「胸を張っていいと分かった」といった感想が多いという。