私大入試真っ盛りである。ことさら短い2月の空気には、芽吹きや新生活に向かって全てが弾(はじ)けだす直前の胎動のようなものを感じる。そんな折に読みたいのが本作だ。
過疎化した海辺の町に住む岩倉美津未。首席で東京の高校に進学した彼女にはカンペキな人生設計がある。しかし、思いとは裏腹に、入学式当日に悪目立ちしてしまう。
とはいえ本作は、上京したばかりの女子高生が急激な環境の変化からナイーブになってしまう話ではない。自分を繕いがちなミカに、過去を隠したいイケメンの志摩、堅物の誠。そんなクラスメイトに対し、周りに合わせて己の発言を矯正しようとする様子のない美津未を包む空気はいい意味で弛緩(しかん)している。近くに居ると緊張が解けて一息つけるからか、周囲もゆるやかに感化されてゆく。そして、恋というものがよくわかっていない美津未にもまた、今まで味わったことのない感情が芽生え始める。
著者は新しい人間関係が築かれる過程で起きる感覚のズレや小さな摩擦、その修復に至るまでを微笑(ほほえ)ましいエピソードのなかで丁寧に描いていく。綺麗事(きれいごと)だけではないが、けして悪くない血の通った描写に、心が温かくなった。=朝日新聞2019年2月9日掲載
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