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「名前」を手がかりに謎に迫る 八ツ目青児「LOST」

 味わいの濃いマンガだ。
 主人公は警官。事件の謎を追い、聞き込みのため見知らぬ土地に単身やって来る。人から人へと訪ね歩くばかりで、あまり大きな展開もなく物語は進むが、ミステリアスな緊迫感が全編にただよい、テンションが非常に高い。どの表情にもニュアンスがあり、どのコマにもムードがある。一見キザなせりふ回しのようだが、芝居がしっかりと練り込まれていて、人物の個性が際立つ。そんな魅力が絵を通してにじみ出てくる。なかなか、こういう力を持った作品には出会えない。
 物語は「名前」をめぐって展開する。主人公は、探し求める人物の名前を手がかりに聞き込みを続け、同じ姓を持つ家族をあぶり出し謎に迫る。一方、この世界には姓を失った者たちが存在し、社会の階層をなしている。名を失うとは、どういうことなのか。名がついてさえいれば、それがその人なのか。謎めいた展開の今後も楽しみだが、このマンガの最大の魅力はやはりキャラクターの存在感だ。掲載誌は女性向けで、女性の心にこそ強く響きそうだが、男性が読んでも大変印象深い。個性の強い作風だけに、読み手を選ぶかもしれないが、ぜひ注目したい一作だ。=朝日新聞2019年3月2日掲載