よく「ネタバレ禁止」なんて言うけれど、本書はまさにそれ。収録3編いずれも予想を超えた仕掛けがある。
表題作は、幼少時に経験した虐待といじめにより〈一生笑わないことに決めた〉ヤクザが、組のカネを持ち逃げした会計士を追って渡米するところから始まる。同行するのは母親がフィリピン人で英語が話せるチャラいチンピラ青年。しかし、GPS情報から割り出した場所に会計士の姿はなく、スマホを握ったまま切断された手首だけがゴミ箱に捨てられていた……。
いつのまにか彼らの車に乗り込んでいた金髪娼婦(しょうふ)に策略家の会計士を加えた4人それぞれの屈折を抱えた人生が交差するロードムービー風のドラマは、どんでん返しに次ぐどんでん返し。ターミネーターばりに不死身なヤクザが繰り広げる銃撃戦のクールさと無表情の裏で焦ったり悩んだりする内心のギャップ、人間の業が炸裂(さくれつ)するラストシーンにも意表を突かれる。
異色ボクサー同士の執念が激突する「獣人」、刑務所内で命を狙われた男の疑心暗鬼の推理劇「WALL」もどんでん返しの連続。精神と肉体の極限を圧巻の“絵力(えぢから)”で描く本書は、文字どおり手に汗握る読書体験となるだろう。=朝日新聞2019年3月23日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 大好きだった 「七帝柔道記Ⅱ」の執筆で増田俊也さんが助けられた「タッチ」と「SLAM DUNK」 増田俊也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社