第1回アガサ・クリスティー賞作家・森晶麿の『毒よりもなお』は、「狂気」をテーマにしたダークミステリーだ。
連続殺人犯は最初に明かされる。自殺サイトの管理人「首絞めヒロ」ことヒロアキ。親に虐待を受け続けてきたヒロアキの心は「がらんどう」で、醜悪な感情しか詰まっていない。8年前に知り合っていたカウンセラーの美谷千尋は、殺人に手を染めていくヒロアキを救おうと手を尽くす。
ところが、最終盤に全てを覆す衝撃の展開が待っている。端役と思っていた人物が前面に出てきて驚きの告白を展開するのだ。張り巡らされた伏線が収斂(しゅうれん)していくのだが、読んでいて時空がゆがむかのような感覚に襲われた。
著者は「あとがき」に書く。「これは完全に青春を失った若者の偽書」「でも、あなたの物語でもあるかも知れない」。作中にある「狂気はそんな遠い場所にあるわけではない」という千尋の思いとも響き合い、今という時代の一断面を突きつけられる。ずしりと重い読後感が残る。(西秀治)=朝日新聞2019年4月20日掲載
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