初めて座禅を組んだとき“無”になる難しさを思い知った。数十年経った今でも完全に雑念を拭い去る次元には達していない。日常のあらゆるシーンにおいて、立ち現われては消えていく頭の中の漠とした何か。その周辺を採れたて野菜を洗うようにキレイにして差しだしてくれるのは、本作の主人公・花さんだ。
母親が家を出ていき、小学3年生で父親と2人暮らしになった花さんは、気落ちした父を見るうち、今まで知らなかった一面に気付く。人と人の縁は箍(たが)にもなる。ゆえに縁が薄まると箍が緩み、隠していた一面がまろびでる。著者は人生を味わい深くする瞬間を日常と絡めてさらりと描く。その力量は、これがデビュー単行本とは思えない巧(うま)さ。
少し成長した花さんは、クラスメイトやその親についても思考を巡らせる。仲良くなった子、疎遠になった子。後者の子がいたとしても、花さんは焦らない。「正直(中略)あんまり気にならなかった」と、自分の本心と向き合うからだ。指向性が増幅しがちな世の中で、この作業を怠らない花さんは安易に流されることなく、日々、新たな視点を獲得してゆく。小学生にして凜(りん)と立つ彼女を見て思う。なんて頼もしいのだろう、と。=朝日新聞2019年5月4日掲載
編集部一押し!
-
インタビュー 辻村深月さん「ファイア・ドーム」 町に舞う噂の火、なぜ人は事件にひかれる ミステリーの外に続く未来へ 朝日新聞文化部
-
-
本屋は生きている たびたび書店(兵庫) 出版社勤務、教員、介護職員を経た店主がつくる、人が自然に滞在する空間 朴順梨
-
-
本好きのための職業図鑑 背筋さんが語る職業としてのホラー作家 「誰かの死」扱っている事実 忘れず 朝宮運河
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 新潮新人賞・有賀未来さん 冷笑しない18歳「戦争もアイデンティティも、小説はわからなさを受け止める手段」 清繭子
-
インタビュー 原田ひ香さん「#台所のあるところ」インタビュー ハッシュタグのつながりの奥に広がる、ままならない人生 樺山美夏
-
トピック 未開の研究分野に挑戦し続けた日本語学者・山口仲美さん 著作集別巻『日本語の問題』刊行記念インタビュー PR by 風間書房
-
トピック 【PR 光文社・創英社・みすず書房・ミネルヴァ書房】プレゼント 朝日新聞1面広告の本、好書好日メルマガ読者計20名様に
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版