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遠藤達哉「SPY×FAMILY」 スパイの偽装家族の無茶な奮闘

 縁もゆかりもなかった3人が、ある日突然家族として暮らし始める、いわゆる疑似家族もの。だが本作はびっくりするほど設定が無茶(むちゃ)だ。登場するのは、007ばりに諜報(ちょうほう)戦の中で活躍する非情なスパイの男、プロの暗殺者の女、人の心が読める超能力者の女児という、なんとも極端な3人。お互いに自分の正体を隠し、それぞれの目的と打算となりゆきで親子となり、一致団結して女児の超一流校へのお受験のため奮闘する日々が描かれる。
 どう考えても無理がある内容で、すぐに話が破綻(はたん)しそうだが、これが意外なことにするすると読めてしまう。ハードなアクションとギャグとサスペンスが絶妙にからみ合い、読者に疑問を抱く暇を与えずに、テンポよくドラマが展開する。ぐいぐいと物語に引き込まれ、サービス精神旺盛な著者の姿勢にすっかり感服してしまった。
 3人は打算で親子を演じている偽装家族だ。しかし偽装だからこそ、わざわざ家族でいるため一所懸命努力する。ウソを貫き通すため、本気で家族のことを考える彼らのひたむきさは、ちょっぴり感動的だ。はったりめいた設定ながら、心にぐっと響くものもあるファミリードラマだ。=朝日新聞2019年8月3日掲載