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イトイ圭「花と頬」 探り合うような思春期の2人の距離

 実際に数えてはいないが、17歳は最も多く歌に歌われた年齢ではないか。発達心理学で言う「疾風怒濤(どとう)の時代」のド真ん中。美しくもあり醜くもある特別な年代を、本作は鮮やかに切り取った。

 高校2年で文学好きの頬(ほほ)子は、図書委員で一緒になった転校生の八尋(やひろ)が気になる。一方、花と音楽が好きな八尋は頬子の父がボーカル&ギターを務めるバンドの大ファンだった。探り合うような会話、私語禁止の図書室での筆談が2人の距離を縮めていく。しかし、お互いが求めているものにはズレがあり……。

 今風に言えば「エモい」ということになろうか。恋愛を主軸としながら、それだけにとどまらない。親子や兄弟、夫婦の関係、各人の抱えるトラウマが、淡々と繊細に描かれる。何気(なにげ)ないセリフが伏線となり、ちょっとした小道具が説得力を増す。実在の小説やミュージシャンの名前が多数登場するのも効果的だ。

 思春期の揺らぎを表象するかのような頼りなげな描線、光と影のコントラスト、緻密(ちみつ)なカメラワーク、著者自身による装丁もいい。複数の出版社がラフを見て「商品として成り立っていない」との理由でボツにしたらしいが、逃がした魚は大きかった。=朝日新聞2019年10月19日掲載