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「誰が科学を殺すのか」 政府の資金投入は、まるで「ばくち」

 近年、毎年のように日本人科学者が自然科学分野でノーベル賞を受賞しているが、その多くは30年以上も前の成果だ。当の受賞者らが日本の研究環境の劣化を嘆き、「このままでは二〇年、三〇年後には日本からノーベル賞は出なくなる」と警鐘を鳴らす。実際、先進国の中で唯一、日本の科学技術論文数は減少している。

 背景にあるのは、政府が推し進める公的研究資金の選択と集中。大学の運営費交付金を年々削る一方、成果が見込めそうな特定分野に資金を重点配分し、投資の「費用対効果」を上げるのが狙いだ。内閣府のムーンショット型研究開発制度では、2050年までに「サイボーグ化技術の実現」「地球上からの『ゴミ』の廃絶」「人工冬眠技術を確立」など25目標を掲げ、5年で1千億円超の予算を投入する。

 大学の基盤的経費を削る一方で、壮大な研究テーマに大金を注ぐ。「経済成長のための成果を焦って求めるあまり、ばくちに手を出したように映る」と本書は見る。「最初から当たると分かっている宝くじを買うことはできない」という大学教授の発言が印象的だ。重要なテーマを扱っているが、論旨は明快で読み易(やす)い。=朝日新聞2019年11月16日掲載