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韓昌完「その子、発達障害ではありません」 社会こそがいびつなのだと

 特別支援学級というところにいる、ショウガイ、ガ、アル、とされている子どもらと劇を作った、子どもらはそれぞれのやり方で劇の生態を理解した、そこにはもちろん言葉は含まれてもいたがそれはごくわずかであり、もっとそれとは違うもの、言葉の外、しかし決して特別なものではないもの、誰もが実は常に自身であてにしているもの、あてにしているのに気づきもしないし気づきもできなくなっているもの、だから「特別」だとされてしまうものをそれぞれのやり方で全力で、まさに全力で、使用して理解した。

 わたしが関わったのはほんの数日だ、彼女ら彼らはこの先、ショウガイ、ガ、ナイ、とされているひとびとの作った社会で生きていく、この本にあるように観察され、分類され、記録されながら。著者はこのようにしたいわけではおそらくない、しかしこのようにする他ないじゃないかと言っているようだ。ひとびとの認識を少しずつ少しずつ変化させ、今の社会こそが実は大変にいびつなのだ、と静かに知らしめていくために。

 つまずかないでおくれというのはわたしのつまらない親心のようなものでしかなく、あの子らはつまずく自由だって持っている。しかしそれがつまずかざるを得ないものだとしたら、それをも自由というのは、ショウガイ、ガ、ナイ、とされているものの傲慢だ。あの時間を思い返したとき、私は楽園を思う、楽園は、楽園とは、風に揺れる草のようにゆらゆらやわらかいあの子たちが、いさかい、噓をつき、なぐさめ、助け、助けられ、泣き、笑い、生きていて、私もそうありたいと強く願い、いやわたしもそうだと同じ地平に立ったように思い、しかしどこか何かが後ろめたく、何が後ろめたいのか、何が後ろめたいのか、そのことを考え続けること、その先にこそ楽園はある、はずだ、多様ということのほんとうの実現、違うものが共存する、そのようなもの、
 字数が足りない。=朝日新聞2019年12月28日掲載

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 さくら舎・1650円=10刷2万1千部。2月刊行。教育学者の著者が現場での経験を踏まえ「発達障害ではない」と言い切った点が画期的。研修教材として広まっているという。