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渡邉良重・福永信「しんじゅのこ」 「時間」が自分を包んでくれる予感

『しんじゅのこ』

 真珠が、琵琶湖でできるまでに6年の時間がかかる、ということについて読んだ後しばらく考えた。6年。それは、途方もない時間とは言えないのかもしれない。けれどそれは「私たちの人生と比べて」であって、そして私たちの人生にとって、本当に6年は「途方もないこともない」時間なのか、とも考えてしまう。真珠が作られるまでにかけられる手間暇。貝が生まれ、育ち、真珠を作り上げるまでの時間。費やされる、貝の時間、湖の時間、人々の時間。完成したものの向こうにある、過ぎ去った時間のこと、行き交った空気、水のこと、誰かの別れ、出会い。それらについて、「途方もないこともない」とは言えないと知っていて、それでも、6年を超えた時間を生きている私たち。様々なことを繰り返して。ずっと。

 真珠は6年の時間を超えて、人の掌(てのひら)へとやってくる。これからの時間を共にするために。誰もその全貌(ぜんぼう)を見ることはできない、大きな大きな湖のような「時間」が、そっと自分を包んでくれる予感がする。そのことを思い出させる絵本です。=朝日新聞2020年2月1日掲載