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「根付の図鑑《動物》」 お洒落は小さなところから

 根付というと、いまではストラップやキーホルダーのように携帯電話やお財布などにつけるものというイメージ。ですが、本来は江戸時代に発展した粋な装飾品で、印籠やたばこ入れなどの提げ物を帯に引っ掛けるための留め具のことを指します。精巧な彫刻を施したものが多く、手のひらサイズの美術工芸品としても愛されてきました。今回はそんな根付の中から動物の意匠だけを集めた「根付の図鑑《動物》」を紹介します。

 著者で根付研究家としても知られる吉田ゆか里さんによれば、根付はその彫刻の精密さや造形美もさることながら、そこに込められた縁起や吉祥の言葉遊びを読み解くことも醍醐味の一つなんだそう。

 たとえば、櫛の上をカタツムリが這っている様を形にしたユニークな根付。通常は出ているはずのカタツムリの角が引っ込んでいることと櫛に水牛の角が入っていることから、「角隠し」と「角が櫛」をかけた言葉遊びから生まれた意匠だと推測できるといいます。角隠しといえば、和装の花嫁。もしかすると婚礼の際の贈り物だったのかもしれません。そんな想像も楽しめます。

 ネズミや猫などの身近な動物はもちろん、オウムやナマコといった意外な生き物たちもさまざまな形で登場するので見ていて飽きません。根付を通して、着物文化の遊び心が感じられる一冊です。