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津留崎優「SA07」 自意識と才能、ギャップに煩悶

 本来なら進学就職の若者が街にあふれる清新な季節のはずが、新型コロナのせいでどんより。そんな淀(よど)んだ空気を換気してくれるのが本作だ。

 子供の頃から絵を描くのが好きだった女子高生がマンガ・アニメ系専門学校に入学するところから物語は始まる。ただし、この主人公がある意味ひどい。見た目の可愛さを自覚している自称「姫」。根拠のない自信から“神絵師”としてネットで称賛されることを夢見ている。が、自分より圧倒的に絵がうまい同級生(しかも美少女だったり美少年だったり)と出会って自我崩壊。「イラスト系の学科で姫になるには…まず画力が必要」という真理に気づく。

 単なるオタクコメディかと思いきや、意外と実践的な絵画論も登場する。「絵は筋肉と同じ」と反復練習の必要性を説く先生。超絶画力の持ち主は、脳内で立体を自在に回転できるという。一方、ヘコみまくりの主人公がマンガの課題ではほめられ有頂天に。近年は美大卒漫画家も珍しくないが、絵のうまさとマンガのうまさは違うのだ。

 タイトルの引きの弱さを除けば、絵もセリフもテンポも快調。過剰な自意識と才能のギャップに煩悶(はんもん)するオタクたちの青春譚(たん)に頰がゆるむ。=朝日新聞2020年4月4日掲載