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「江戸東京野菜の物語 伝統野菜でまちおこし」 地域の味復活させ、小さな経済潤す

 数年前から産直市場や道の駅で、地域の伝統野菜が注目されている。東京も最近増えてきたなと思ったら、なんと「江戸東京野菜」には現在50品目が登録されているそうだ。

 江戸初期、諸大名が地元の百姓を呼んで作らせた野菜が、江戸の気候風土に合う固定種として定着したのが江戸東京野菜の始まり。農家が種をまき、野菜を育てまた種を取り、大切に守り継いできた。

 味がよく人気があった野菜も多かったが、1970年ごろから大量生産と流通が可能な交配種(F1)がとって代わる。本書は、消えかけていた江戸東京野菜を復活させるべく奔走する物語である。

 元JA職員で江戸東京・伝統野菜研究会代表の著者は、早稲田にミョウガがあると聞けば探索に歩き、絶滅した青茎菜が仙台にあると聞けば東北まで足を運ぶ。農家や料理人や小学校の教師を巻き込み、途絶えていた野菜を甦(よみがえ)らせるストーリーは痛快だ。

 東京から畑がなくなっていく中、小学校の敷地内で伝統野菜の栽培や採種が行われ、子どもたちの学習によって種が受け継がれているのも興味深い。地域に愛着を持ち、地域の味に親しむことは、地域の農を守り小さな経済を潤すことにつながっていく。=朝日新聞2020年5月2日掲載