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「トーキング・トゥ・ストレンジャーズ」 見知らぬ人と理解し合うために

 ストレンジャーとは「見知らぬ他人」を意味する。著者は、アメリカで人気のノンフィクション作家。本書では主に12の事例を展開しながら、私たちが日常生活の中で見知らぬ人と出会い、お互いを理解し合うプロセスに潜む危うさを突き付ける。心理学など学術的研究も交え、謎と伏線を絡ませる構成は、さながらミステリー小説のよう。

 銃や暴力の描写から、日本の日常風景とは遠いものという第一印象を受けるかもしれない。しかし、読み進めるうちにそれは違うと分かる。私たちが過ごす街、職場、学校、あらゆる場所に「ストレンジャー」はいる。そして、ダイバーシティーを促進する社会に、他者理解は欠かせない。

 その言葉、その態度、その行動を選ぶに至ったいくつもの理由の存在。印象を大きく左右するバイアス(先入観)。あるいは、表情の読み解き方の文化的相違。スペイン人の多くが「怒り」と認識する表情は、南太平洋のトロブリアンド諸島民には「恐怖」や「幸せ」とも受け取られるという。

 もしも圧倒的な権力差がある2人が、他者理解に失敗したら。著者が重点的に取り上げる女性ドライバーと交通警察官をめぐる悲劇は、切実で重い課題を投げかける。=朝日新聞2020年7月4日掲載