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「食卓の経営塾」 日本の食文化見つめ直し、豊かさ問う

 今年3月、アメリカのディーン&デルーカは破産したが、国内の店舗では影響を受けることなく運営が続けられている。2003年の日本上陸以来、経営の指揮を執り続けてきた著者は、16年に国内での永久ライセンスを取得。世界の食材を集めたイートインスペースもある店として本国以上の成功を収めてきた。

 だが当初は、ニューヨーク旗艦店の真似(まね)をしては失敗し、危機の連続だった。指針となったのは、創業者の一人デルーカ氏の「きみの店にはソバがあるのかい?」という言葉。足元にある日本の食文化を見つめ直し、豊かさの本質を問う作業が始まった。

 もがきながら理想の店をつくってきた著者の経営哲学の根底には、人への信頼がある。会社が考えるビジョンさえ共有できれば、あとは社員の好きなこと、やりたいことを応援する。意志のある個人の集まりがチームとなり、よきチームの集まりがグループとなる。目指すのは、色も形も大きさも違う船が、助け合い進んでいく船団だ。今は約2千人がさまざまな船に乗り組む企業へと成長した。

 タイトルには「食卓」とあるが、食の世界だけでなく、どんな職種の人にも響く言葉がちりばめられている。=朝日新聞2020年8月1日掲載