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「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」 アイデア次第で新鮮な表現に変身

勝部翔太さんがビニールタイでつくる約3センチの極小の戦士たち

 アール・ブリュット。この言葉を初めて知ったなら、検索する前に、本書をめくろう。紙とペンだけ、あるいは紙とハサミだけで、まだこんなにもやることがあったなんて!と励まされるから。壁紙を剝がすことが、新しい世界への幕開けになるなんて!!と感動するだろうから。身近にあるものが、アイデアによって、新鮮な表現に変身する。遠慮することなんて全然ない。そんなメッセージを受け取るだろう。

 アール・ブリュットって「生(き)の芸術」だろ、と、知ったかぶりをしちゃう人も(僕もそうだ)、まあそう言わず、コッソリでいいから、やっぱり、この本をめくってみよう。著者が書く、簡潔で密度ある言葉が、読者の背中をグイッと押す。偏見を捨て、積極的に「見る」目線へと読者を促す、こんな文章こそ、読みたかった。細部にこだわったカッコイイ装幀(そうてい)も、作品に負けじと踏ん張ってる。紹介してハイ終わりの本ではない。新しい友達ができた、これからもよろしく。そんな気持ちになる本だ。=朝日新聞2020年9月19日掲載