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綾崎隼さんが作者買いを続けている漫画家・浦沢直樹 『YAWARA!』も『MONSTER』も物語の閉じ方に感動!

 子どもの頃から作者買いをしている漫画家が二人います。浦沢直樹先生とあだち充先生です。
 浦沢先生のことは、父親が「ビッグコミックオリジナル」を購読していたこともあり、『MASTERキートン』で知ったのですが、好きになったきっかけは『YAWARA!』だったように記憶しています。
 今でこそ主人公が無双する物語は珍しくありません。ただ、そういったジャンルの走りと言っても過言ではないのに、『YAWARA!』にはそれらの作品に共通する鼻につく感じが一切ありません。普通の女の子になりたいと願っている少女が、等身大のまま、最初から最後まで清々しいほどに最強なのです。
 「二十世紀の漫画から最高のヒロインを決めなさい」と言われたなら、私はナウシカか猪熊柔の二択で迷うと思います。

 主人公である柔の魅力については、今更、語るまでもない気がしています。(アニメの皆口裕子さんの声も最高ですよね!)
 なので、むしろ声を大にして言いたいのは、中盤、後に親友となる伊東富士子が登場してからの盛り上がりについてです。
 柔は最初から最後まで最強です。演出が本当に上手いので、度々、今度こそ厳しいのではと思わされますが、それでも柔なら勝ってくれるだろうという不思議な信頼感があります。しかし、伊東富士子は素人からスタートしているので、当然、負けます。良い所で、ここぞという場面で、負けてしまいます。それでも彼女は、親友のためにもと戦い続けるのです。 その想いと覚悟に、凡人たる私は涙せずにはいられませんでした。
 柔の絶対的な魅力と同時に、伊東富士子のサクセスストーリーを楽しむ物語。『YAWARA!』はそんな作品なのだと思います。
 この作品について、もう一つ、絶対に語っておきたいことがあります。
 それは、恋物語として完璧な決着がついているということです。
 私は少年漫画(『YAWARA!』は青年誌の掲載)における、主人公とヒロインのぼんやりとした恋の結末に、幾度となく消化不良感を覚えていました。答えを出す気がないなら、恋模様を匂わせなきゃ良いじゃんと、子ども心にいつも不満を覚えていました。
 しかし、『YAWARA!』は違いました。完璧という言葉以外では形容出来ない結末でした。最高の最終回、最高のラストシーンでした。
 あの感動を忘れることはありません。だから、大人になり、小説家になった今、私は、必ず恋物語に決着をつけます。(そもそもお前はよく恋愛小説を書いているんだから当たり前じゃんと言われると、返す言葉もないのですが)とにかく、匂わせたからには、結末まで描く。逃げるのダメ、絶対。という精神で頑張らせて頂いております。

 もう一作品。
 『YAWARA!』と双璧で大好きだったのが『MONSTER』です。
 既に浦沢作品のファンになっていたこともあり、父親が買っていた「ビッグコミックオリジナル」で、第1話から読んでいました。連載で読んでいたので、まさかの方向性が明示された回で、「あ! 今度はそういう物語だったの!?」と、いたく興奮したことを覚えています。
 『MONSTER』では『YAWARA!』とは対照的に、男の戦いが多く描かれています。
 主人公のテンマ、そして、(中盤から登場する)グリマーさんに憧れていました。
 グリマーさん、格好良いですよね……。そうか。こういうやり方でも魅力的なキャラクターを描けるのかと、子ども心に得も言われぬ感動を覚えていました。
 『MONSTER』ってまとめるのが、物凄く難しい物語だったと思うんです。9巻で決着がつかなかった時点で、これ、どうやって終わらせるんだろうと不安になりましたが、素人の心配など杞憂でした。グリマーさんが登場し、物語は加速度をつけてクライマックスへと進んでいきます。
 私は子どもの頃から、何だかんだ言ったとことで、結局、<キャラクター読み>ではなく<ストーリー読み>をしてしまう人間でした。そのため、最終刊で過不足なくまとめあげられた物語に、本当に良かった……ありがとうございます。ありがとうございます。という気持ちで、本を閉じることになりました。
 道中の面白さは、たとえ納得のいかない結末が待っていても変わるわけではありません。(数分前に、恋に結論を用意しない少年漫画に不満を述べましたが……)物語の閉じ方で、作品の評価が容易にひっくり返るのも事実です。複雑な舞台を用意すればするほどに、ハードルも上がります。
 だからこそ、やっぱり『MONSTER』は凄い作品だったなぁと、今でも強く思うのです。