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珪素「超世界転生エグゾドライブ」 手に汗握る「異世界転生」競技

珪素著『超世界転生エグゾドライブ01―激闘! 異世界全日本大会編―〈上〉』(電撃の新文芸・1430円)

 技術として確立された異世界転生は、娯楽となり競技となった。すなわち「異世界転生(エグゾドライブ)」だ。その中学生全日本大会・関東地区予選準決勝。会場を埋め尽くす観客の前で、ドライブリンカー(定価2980円)に4本の「C(チート)メモリ」を差し込んだふたりの中学生がトラックに轢殺(れきさつ)される時、熱い異世界転生バトルが幕を開ける!

 異世界転生が子供に大人気のホビーになってしまった日本という頭の痛くなる世界を描くのが珪素(けいそ)『超世界転生エグゾドライブ』。転生者(ドライバー)たちが四つのチート能力(チート=「ずる」としか言いようのないほど強大な力)を組み合わせ、どちらがより鮮やかに世界を救えるかで得点を競う。

 登場するチート能力は常識を超えたレベルアップが可能な【超絶成長(ハイパーグロウス)】、前世は武術を極めた達人だったという設定で序盤から大活躍する【達人転生(スタートダッシュ)】など、このジャンルの読者なら思いあたるものばかりだ。異世界転生ものは一つ人気作が生まれると、以降の作品でそれをパロディーにしたりヒネリを加えたりしていく、という本歌取りの連鎖が読みどころの一つだ。本書はそんな側面を、ホビーものの形式を用いて突き詰めた作品と言えそうだ。お約束から変わり種まで、様々なチートを駆使し競技者がポイントを競う姿は、あまたの書き手が小説投稿サイトでランキングを競う、現在の異世界転生ものを取り巻く環境そのものを物語にしたようでもある。

 一方、ただの「出オチ」で終わっていないのも本作のすごいところだ。競技のルールや各チートのメリット・デメリットをきちんと定めた上で、相手の構成や戦略を推察、お互いにその裏をかく心理戦・頭脳戦を展開する。序盤は設定のバカバカしさに大笑いしていた読者も、いつの間にか手に汗を握ってページをめくっているのだから、著者の筆力は大したものだ。

 本作の初出は、小説投稿サイト「カクヨム」。書籍化に先行してzuntaによるコミカライズも行われており単行本1巻がマッグガーデンから発売されている。また著者の珪素は現在、『異修羅』(KADOKAWA)も3巻まで刊行中。本物の勇者を決める上覧試合で『エグゾドライブ』にも劣らぬチートな強さを持つ16人が戦う本格バトルファンタジーだ。あわせてどうぞ。=朝日新聞2020年10月17日掲載