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森見登美彦、上田誠「四畳半タイムマシンブルース」 「必然」のコンビに狂喜乱舞

 この小説に関しては「おもしろい」としか言いようがない。

 原案は、京都を拠点に活動する劇団のヨーロッパ企画の代表作『サマータイムマシン・ブルース』だ。2005年には、映画化されている。BSで放送された時に見たのが、ヨーロッパ企画と私の出会いである。

 夏休みのある大学、SF研の面々は暇を持て余し、躍動感のない野球をやったり、部室に集まったりしている。騒ぐうちにクーラーのリモコンが壊れてしまう。そこにタイムマシンが現れる。壊れる前のリモコンを手に入れるために、昨日と今日を行ったり来たりする。

 正直、最初に見た時は、タイムマシンの動きとリモコンの行方を追うのに必死で、おもしろさを掴(つか)みきれなかった。繰り返し見るうちに、タイムマシンものとしての完成度の高さや青春ものとしての楽しさにはまっていき、私はヨーロッパ企画の公演も観(み)にいくファンになった。

 同時期、私は森見登美彦さんのファンにもなる。森見さんのどこがどうして好きなのか、語ろうと思えば語れるけれど、「読んでいる間ずっと幸せ! すごい!」といえば充分だろう。

 ヨーロッパ企画の上田誠さんが脚本を担当したアニメが、森見さん原作の『四畳半神話大系』だ。おふたりは同世代で、学生時代は同時期を京都で過ごしている。「必然」とも思える組み合わせだが、ファンとして狂喜乱舞した。

 今年に入り、新型コロナの感染が拡大していき、私は見事に「コロナ鬱(うつ)」に陥った。気分が沈むばかりの日々の中で、『四畳半タイムマシンブルース』の発売は、神様からのプレゼントではないかと思った。

 舞台は京都の下鴨幽水荘に移り、「四畳半」の私や小津や明石さんたちが騒ぎを起こす。原案の『サマータイムマシン・ブルース』とは、雰囲気が違い、いくつかの点が変わっている。

 夢中になって一気に読み、楽しさと少しの切なさを感じながら、本を閉じた。=朝日新聞2020年10月31日掲載

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 KADOKAWA・1650円=4刷10万部。7月刊。著者の初期代表作で、アニメ化もされた『四畳半神話大系』の16年ぶりの続編。「久々の新作が待望されていた」と版元。