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雑誌「ちゃぶ台」 生活者目線の確かな言葉が伝わってくる

 「ちゃぶ台」というタイトルから何の雑誌かすぐにわかる人はいないだろう。表紙には「生活者のための総合雑誌」とあるが、「暮しの手帖」のように消費者の生活を応援する具体的情報が載っているわけではない。巻頭言には「複雑な事象を暴力的にわかりやすくしたりせず、しっかり粘り強く、考えつづけていく」という編集長の意気込みが語られていて、強いて分類するならオピニオン誌になるだろうか。

 だが上から目線でアジりがちなオピニオン誌とはちがって、内容はいたって等身大。食と農業の研究者と文化人類学者の対談や、山口県・周防大島への移住者によるエッセー、島人へのインタビュー、写真家による家族写真、その他マンガや詩や論考などが並んでいる。私なりに勝手に定義させてもらうなら、生活者の目線と口調で書かれた暮らしのオピニオン誌といったところだろうか。

 使用している紙が記事ごとにバラバラで、判型が正方形に近いのも変わっている。雑多でなんでもありの手作り感。スタイリッシュでないローカルな味わいが心地いい。

 実はこの「ちゃぶ台」は今号からリニューアルされている。これまでは背表紙すらない製本で、同人誌っぽささえ醸し出していたのだが、内容は一貫して今の時代と暮らしに真摯(しんし)に向き合っていた。最新号の特集は「非常時代を明るく生きる」。まさに今を生きるわれわれみんなの願いそのものである。

 私がもっとも興味深かった記事は「分解とアナキズム」と題する藤原辰史(ふじはらたつし)氏と松村圭一郎氏の対談で、今世界中でこれまでのやり方に対する怒りが渦巻いているという認識から始まり、資本主義を敵視しても事態を改善するのは難しい、それより問題は「高速回転」だとする藤原氏の指摘が面白い。詳細はうまく説明できないので読んでほしいが、「高速回転」という単語に笑ってしまった。松村氏の、コーヒーを飲むときに隣近所も誘ってイスラム教徒もキリスト教徒もいっしょに飲むというエチオピアの話も面白い。おかげで対立は和らぐんだけど、これが全然盛りあがらなくて面倒くさいときもあるとか。どこかユーモラスなふたりの語り口に心和んだのである。

 明るく生きるのは簡単なようで難しい。困難な時代を生きるのに明確な旗印などないのだ。だからこそローカルな現場で小さくても確かな言葉をつむいでいかなければならない。よって舞台でも演台でもなく「ちゃぶ台」。

 いい世の中をつくりたい。そんな思いが伝わってきた。=朝日新聞2020年12月2日掲載