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「フットボールアルケミスト」で知る、交渉代理人のお仕事 あらゆる方法で選手をのし上げる!?

文:片岡まえ

 『直撃 本田圭佑』などの著書があるスポーツライターの木崎伸也さんと、気鋭のサッカー漫画家・12Log(ワンツーログ)がタッグを組んだ『フットボールアルケミスト』(白泉社)。『キャプテン翼』をはじめ数あるサッカー漫画の中でも、選手ではなく「代理人業」を描く異色の作品です。

 主人公の夏目リサは、国際貢献に興味を持つ女子大生。サッカーが与える国際的な影響力に注目し、選手の交渉代理人のインターンになります。世界を舞台に活躍するプレーヤーの夢を叶え、その活躍をファンに届けられると期待していたリサでしたが、待ち合わせの試合会場で待ち受けていたのは、野望のためには手段を選ばず、「金の亡者」とうわさされる先崎恭介。恐る恐る代理人の仕事について尋ねると、まずは契約選手と、これから契約したい選手を観察することだと教えられます。

©木崎伸也・12Log/白泉社

 代理人の仕事は、選手のヘッドハンティング、キャリアアップを意味する「移籍」の際に、現所属クラブと移籍先のクラブとの橋渡しをすることです。先崎はチームが苦しい時にボールをキープし、仲間が上がる時間を作ることが得意な「沼田啓太」という若手に目をつけていました。試合に負け、肩を落としている沼田に先崎は突然、「どん底の時こそ、冷静になれ」と叱咤激励し、ドイツへの移籍の話を持ちかけます。

 クラブとサポーターへの恩に揺れる沼田に、「移籍市場は秒で動き、替わりはいくらでもいる」と説き、わずか一日で沼田に移籍を即決させてしまった先崎。この移籍で動いたお金は約5000万円。先崎によると小額だそうですが、その10%が代理人の取り分だと聞いたリサは、競技人口の多さや人気のあるスポーツであるゆえの莫大な金銭の流れに、改めて驚かされます。

 実績のある即戦力の選手より、地味な動きでチームを支える縁の下の力持ちタイプに注目するのが先崎です。守備的な選手は、チームの勝率を上げることができるにも関わらず良さが伝わりにくく、移籍市場では評価されづらいのが現状なのだとか。サッカーとは相手の思考の逆を突くスポーツ、他人が右を見ている時左を見ることができる人間が勝者になれると先崎は言います。

©木崎伸也・12Log/白泉社

 その後、ドイツのチームに移籍した沼田は、文化や言葉の壁だけでなくトラブルに巻き込まれ、試合に出場することもままならない状況に陥ってしまいます。所属選手のケアも代理人の大切な仕事。先崎とリサのコンビは沼田を救出に向かいます。選手はいわば、給料をクラブからもらっている個人事業主のようなもの。代理人はそんな彼らの適性を適切な場所で開花させ、活躍させる影の立役者です。選手とクラブの間に立ち、時には監督に賄賂を渡すなどダークな手段を使い(!?)、悪魔となって戦うのです。

「フットボールアルケミスト」で知る、代理人あるある!?

  • 代理人の呼び方は、FIFA(国際サッカー連盟)ではエージェント、日本サッカー協会での正式名称は「仲介人」と呼ばれる
  • 試合会場で契約したい選手の動きを観察するときは、関係者席ではなく、先崎のようにゲームの流れの一部始終を上から見渡せる一般席で見る人もいる
  • 代理人は元プレイヤーが多く、各チーム、各選手の個性やプレーを理解している
  • 移籍先の監督の好きな食べ物や家族構成などを徹底的に調べ、交渉の材料の一つとすることがある
  • 選手の発掘や視察で海外に行く機会が多く、また、海外から移籍してくる選手もいるので、英語のほかにも語学が話せるとより仕事がスムーズに進む
  • 選手の契約のためにあらゆる手段を考え実行するため、臨機応変に対応する力とフットワークが軽いことが望ましい
  • 選手の移籍先の住居を探すこともある