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新たな視座と自分を発見する喜び SOMPOひまわり生命取締役社長 大場康弘さんの本棚

指針としている経営論を何度も読み返し書き込み

 純文学、エッセー、海外のミステリーなど、ジャンルを問わず読んでいます。ビジネス書はあまり読まないのですが、柳井正氏の著書『経営者になるためのノート』は心に響くものがあり、何度も読み返しています。中でも「経営者とは、成果をあげる人」「成果とは、約束したこと」という冒頭の言葉。当たり前のようで、簡単なことではありません。経営者に必要な「変革する力」「儲ける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」について様々な視点から説く実践的な経営論も読み応えがありました。書名の通りノートの体裁なので、成果の有無などを書き込んで自己評価の指針としています。社長になってからは、初めて管理職になった社員にメッセージを添えてプレゼントしています。自分と同じ指針をもって組織を率いてほしいと思うからです。組織の大小や職種を問わず、リーダーの参考になる本だと思います。

 落語家・立川談春さんの自伝エッセー『赤めだか』は、ここ十数年に読んだエッセーの中でベストワンだと思う一冊。涙あり笑いあり、まさに落語のような面白さでした。彼の師匠である立川談志は、「修業とは矛盾に耐えること」と語ったそうですが、矛盾の源は、談志その人。若き談春さんが悪戦苦闘しながら矛盾を乗り越えていくプロセスが清々しく、また、矛盾も是も非もさらして全人格で弟子に接する談志の姿が印象的でした。談志は自分のコピーを作るのではなく“イズム”の伝承をしていたのだと思います。お辞儀の仕方や扇子の置き方まで親切に教えたというのは意外でした。立川流の二ツ目に昇進するには、古典50席に加え、鳴り物、講談、踊りの技量が問われることにも驚きました。いろいろできて初めて物になるということでしょう。我々ビジネスの世界も、様々な仕事や職場を経験してやっと物になる。上司が部下に全人格で接することで伝わる“イズム”がある。そんな読み方もできました。

 『日本の喜劇人』を読んだのは、大学時代。エノケン(榎本健一)、ロッパ(古川緑波)から、森繁久彌、トニー谷、クレイジー・キャッツ、コント55号、ビートたけしやタモリまで、日本の喜劇人の変遷がまとめてあります。クロニクルの縦軸だけでなく、一人ひとりの芸風や世に出た時代背景など、横軸も丁寧に押さえています。著者の小林信彦氏は、往年の喜劇人たちの芸を生で観(み)たり直接話を聞いたりしているので、表舞台からは伺えない彼らの素顔もわかります。私は本書をきっかけに名画座通いを始め、森繁久彌の「駅前シリーズ」や植木等の「無責任シリーズ」といった喜劇映画にハマりました。とりわけ「男はつらいよ」シリーズが好きで、全48作のDVDもそろえました。今もたまに観賞しています。

大学時代に読んだ本 再読すると新たな味わい

 大学時代に愛読した作家は、藤原新也氏。旅行記に触発されて東南アジアをバスで旅したことも。中でも『印度放浪』は衝撃的でした。著者が1970年前後にインドを旅したときの手記です。彼が目にしたインドは物質的に貧しく、不衛生で、川には死体も流れている。けれども、死と隣り合わせの生の輝きがあり、命の実感があり、精神の豊饒(ほうじょう)さがある。当時の日本といえば、物質的には豊かで、衛生的で、人工的。帰国した彼は、「今、僕の前にあるこのニッポンの風景は、あまりに美しすぎて悲しく、そして軽く、非歴史的であり、空しく、滑稽である」と書いています。「豊かさとは?」というテーゼを投げかけられた気がしました。当時からさらに文明が進んだ現代をどう生きるか。今読んでも考えさせられます。

 最後は、夏目漱石の『三四郎』です。大学時代に読んでいましたが、50歳を過ぎてたまたま再読したところ、印象を新たにしました。昔は、熊本の青年が東京に出て大学生活や恋愛を謳歌(おうか)する青春ストーリーという印象でしたが、読み方が単純でした。東京に出た三四郎は、それまで出会ったことのないような人々との交流を通じて、過去(故郷の価値観や日本の古い慣習)、未来(知識人たちの新しい思想や自由恋愛)、現在(現実世界の自分)のはざまで揺れ、迷います。明治の終わりに人間の普遍的な心情を捉えた漱石。その文章は淡々としていながら絵画のように美しい。今作に続く『それから』『門』なども、読み直すと印象を新たにすることが多かったです。日本語で漱石を読める幸せをかみしめました。

 読書は新たな視座を与えてくれると同時に、私が喜劇映画の虜(とりこ)になったように、あるいは50歳を過ぎて漱石に魅せられたように、眠っていた自分を発見する機会を与えてくれます。ですから忙しい時も読書の時間だけは大切にしています。(談)

大場康弘さんの経営論

 保険本来の機能(Insurance)に健康を応援する機能(Healthcare)を組み合わせた、従来にない新しい価値「Insurhealth®(インシュアヘルス)」というコンセプトを打ち出し、「健康応援企業」への変革を目指しているSOMPOひまわり生命。その背景や具体的な取り組みとはどのようなものなのでしょうか。

保険に新機能を加え「健康応援企業」へ

 SOMPOひまわり生命は、保険本来の機能(Insurance)に健康を応援する機能(Healthcare)を組み合わせた、従来にない新しい価値「Insurhealth®(インシュアヘルス)」を提供する。

 「生命保険は従来、自分や家族に『万が一』のことがあったときの備え、というイメージが強かったと思います。しかし現在は、病気の予防や早期発見に関するテクノロジーが進化し、万が一を可能な限りなくしていくようなサービスを保険に付与することが可能になっています。当社はこの明るく前向きなコンセプトのもと、総合的にインシュアヘルス商品にシフトしていくと宣言し、『あなたが健康だと、誰かがうれしい。』という企業スローガンを掲げました。伝統的な生命保険会社から脱却し、国民の健康を応援する『健康応援企業』への変革を目指しています」

 インシュアヘルス商品の第一弾として発売された収入保障保険「じぶんと家族のお守り」は発売後8カ月で加入が10万件を超え、今も多くの支持を集める。その理由のひとつは、加入者が無料で利用できる「健康チャレンジサポートサービス」。禁煙方法のアドバイスや個別の相談に応じてもらえたり、体重管理や食事記録をサポートするアプリが利用できたりする。「じぶんと家族のお守り」が保険本来の機能の部分であり、「健康チャレンジサービス」が健康応援機能にあたる。この両輪が組み合わさっていることがインシュアヘルス商品の特徴だ。

 「一般的な禁煙の成功率は2割と言われていますが、私たちのお客様からは保険加入をきっかけに禁煙に成功したという喜びの声が多く届いています。『保険をきっかけに夫が禁煙に取り組んでくれてうれしい』といったご家族からの声も寄せられています」

保険とテクノロジーの融合を促進

 保険とセットで提供しているアプリは、加入層に合わせて複数そろえ、国内外から技術を集めて開発している。シリコンバレーの企業と開発した認知機能の維持・改善を支援するアプリや、イスラエルの企業と開発したスマホカメラでストレス度を測定するアプリ、スイスの企業と開発した健康状態を数値化するアプリなどだ。日本のヘルスケアベンチャーが開発したがんの罹患(りかん)リスクを唾液(だえき)から測定する技術と保険を組み合わせた新たな商品の開発などにも取り組んでいる。

 「万が一のときの安心・安全を保険で保障するだけでなく、テクノロジーを通じてお客様の毎日とつながり、健康リスクの予測・予防に貢献していきたいと考えています」

 大場さんの腕にあるウエアラブル端末は、歩数や心拍数、消費カロリーなどが測れる。これを全社員に配ってデータを取り、社内から健康意識の向上を図っている。就業時間内禁煙、新入社員の非喫煙者採用など禁煙にも力を入れる。

 「リーダーの役割は、社員に夢や希望を与えること。社会に明るい未来を提示すること。テクノロジーを取り込んで新しい価値を創造していきたい。私の座右の銘は、佐藤一斎の『言志四録』にある『一燈を提げて暗夜を行く 闇夜を憂うること勿れ 只だ一燈を頼め』。一燈(理想)を信じて、『健康応援企業』への変革を目指していきます」

大場社長の経営論 つづきはこちらから