文章もイラストも、ほのぼのとしている。読後に残るのは、登場する各国出身の人たちの穏やかな笑みである。それでいながら、本書は日本内外の過酷な歴史と現状から目をそらしていない。後書きで著者のいう「くそったれでカラーフルなこの世界の断片」が鮮やかに示される。
本人もまた、どこかのどかで、押しつけがましさのまるでない、作品が与える印象通りの人であった。
「並べて愛(め)でたいというか、ああいいなあ、いろいろあるなあ、というのを自分で見たいんです。世界はいろんな人で構成されている」
「上野公園のチェリスト」(北マケドニア)に始まり、「横浜中華街育ち、元不良の料理人」(中国)、「スペイン内戦で亡命した一家の子孫」(メキシコ)、「アパルトヘイト時代を生きたジェンベ奏者」(南アフリカ)などなど、故あって日本に暮らす18組20人の物語で本書は成る。日本にいても、その気になれば世界の様子がここまで「いろいろ」わかるのだった。登場人物の魅力と共に、知らないことはこつこつ学んでいく著者の姿勢が全編を支える。
何であれ、まずは面白がることが信条という。それも芯の強さがあってこそだろう。弱い立場の人に心を寄せながら、苦境を強いている側に対しては憤りを隠さない。難民支援など具体的な活動もしている。
10代の頃は「得意なことが何もなくてしょんぼり」していたそうで、出版社やテレビ制作会社、新宿ゴールデン街の酒場のママ見習いを経て今がある。イラストは全くの我流と聞いて驚いた。「何をするにも遅くて、勇気を出してちょっとやってみて、またちょっとやって……という感じですね」。本を読んでは、世の中って面白そうだ、どうやら外はもっと広そうだと感じてきた。今度は自分がそれを伝えていけたらと思っている。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2023年1月14日掲載