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富士屋カツヒト「打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。」 実直な語り口に秘めた情熱

打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。 [著]富士屋カツヒト

 連載打ち切り決定直後に妻の妊娠を知った作者いわく、〈天国と地獄が同時にやってきた〉。まさにこの言葉どおりの上を下への日々を描く。
 帯やカバーには〈パパ目線の育児エッセイ〉とあるが、まず描かれるのは週刊連載の過酷さと何の保証もない漫画家という仕事の不安定さだ。連載終了で事実上の無職となった作者は、とある会社の契約社員として働き始める。慣れない仕事に右往左往し、厳しい親方にパワハラまがいの叱責(しっせき)を受け、武骨だが優しい先輩の励ましに涙する。この職場の描写が何とも切ない。
 しかし、そんな苦境を救ってくれたのが、ほかでもない子供の存在だった。いろいろうまくいかずとも、子供の笑顔に癒やされる。深夜にミルクを飲ませながら〈人生の主役が変わった気がする…〉と感じる作者。それで心が軽くなったことから彼の漫画家人生も再起動、育児エッセイの依頼が舞い込むに至るのだ。
 絵柄も名前も変えて挑んだ新境地。野性味は消えたが、その分、万人に読みやすい。リアルさを残しつつ可愛い赤子の描写は秀逸。父になることで自分や妻の父に思いを馳(は)せる場面もしみる。実直な語り口に秘めた情熱に、パパ漫画家の覚悟と誇りを見た。=朝日新聞2017年4月23日掲載