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政治家の言葉:上 特別対談 保阪正康さん、斎藤美奈子さん

2017年07月23日

ほさか・まさやす 39年生まれ。ノンフィクション作家。『田中角栄と安倍晋三』『あの戦争は何だったのか』など

さいとう・みなこ 56年生まれ。文芸評論家。『学校が教えないほんとうの政治の話』『文章読本さん江』=共に浅野哲司撮影

 自民党の政治家による暴言・失言が相次いでいる。安倍晋三首相自身の言葉の軽さを指摘する声もあり、内閣支持率も落ちてきた。「政治家の言葉」の重みはどこへ……。本紙書評委員の保阪正康さんと斎藤美奈子さんが政治家の本を引きながら語り合った。

 ——稲田朋美防衛相の東京都議選応援演説での「自衛隊もお願い」発言と釈明会見での「誤解」の連発。東日本大震災をめぐる今村雅弘前復興相の「東北でよかった」もありました。秘書への暴言など次々出てきます。
 保阪 稲田さんは、国家の、そして国民の自衛隊を、まるで自民党の持ち物のように言う。一般社会の常識も基本的な政治の知識も欠けている。
 斎藤 暴言や失言をする政治家には三つの特徴があると思います。(1)過去への敬意を欠いている。歴史を知らないし、先人に学ぶ気もない(2)現在、すなわち国民に対する誠意を欠いている。適当にごまかそうとする(3)未来に対する責任を欠いている。『政治家失言・放言大全 問題発言の戦後史』に約500件が掲載されています。
 保阪 本を読まない人の特徴とも重なる。(1)形容詞が多い(2)結論しかいえない(3)耳学問だから話がもたない。

 ——安倍首相は自らの国会対応を「反省」し「説明責任を果たす」という一方、都議選の応援演説では「こんな人たちに負けるわけにはいかない」とも。
 保阪 「反省する」と言うが、行動を伴ってこその反省。言いっ放しでは国民を愚弄(ぐろう)していることになる。プロセスの説明なしに結論がいきなり出てくることも気になる。安全保障法制も共謀罪もそう。
 斎藤 安倍首相は『新しい国へ 美しい国へ 完全版』で「戦後レジームからの脱却」と言い、自らを「闘う政治家」と規定していますが、要は戦後民主主義を捨てたい?
 保阪 祖父の岸信介さんの背中を追いかけ、正当化することに重きを置いているのでしょう。歴史を権力者のものと思っている。国民の総意が動かしていると分かっていない。

■小選挙区で劣化
 ——言葉の劣化はいつごろから顕著になりましたか。
 保阪 1996年の衆議院選から小選挙区制が導入された。中選挙区時代は、自民党内から複数立候補するから批判し合いチェックも利いた。小選挙区制では、党の指導者が決定権を持ち、お気に入りばかりが公認される。それが議員の質の劣化を招く大きな要因の一つだと思いますね。
 斎藤 与党が大勝すると、小選挙区で負けても比例で復活する人がいる。裏口入学みたい。
 保阪 受かるはずのない人が受かってくるのだから、失言の多発もむべなるかな。「ワンフレーズ政治」は、小選挙区制で強化されていく。小泉政権しかり、安倍政権しかり。

 ——小選挙区制の前に、93年に55年体制が崩れ細川政権が誕生、政界再編が続きました。
 斎藤 94年に「自社さ」政権ができるのですが、すりあわせができずにあっさり崩壊した細川政権と比べて、議論が活発だったようですね。『聞き書(がき) 野中広務回顧録』には、閣僚懇談会を延々とやっていたとあります。『村山富市回顧録』も読むと、この政権は、稀有(けう)な中道リベラル政権だったような気がしてくる。村山・野中世代の政治家の厚みを感じます。
 保阪 その2人は戦争に徹底して反対の立場。戦争にかり出された側の視点と体験から身につけたバランス感覚があった。しかし今の自民党議員は、かなりの人たちが歴史修正主義に取り込まれている。

■「戦間期」の思想
 斎藤 読者にお薦めしたいのは保阪さんの著書『安倍首相の「歴史観」を問う』。安倍政権の言葉がなぜ軽いのか、歴史と比較してよく分かる。保阪さんは「戦間期の思想」はだめだとおっしゃっていますね。
 保阪 第1次世界大戦から第2次世界大戦の間が「戦間期」。「領地を失ったけれど、次は取り返してやる」というのが「戦間期の思想」。我々の国は45年から、戦間期の思想を持たないという壮大な実験をやっているんですよ。だからずっと「戦後」なんです。安倍さんが危ないのは、戦間期の思想を持っているんじゃないかと外国から疑われかねないことですね。
 (聞き手・吉村千彰読書編集長、構成・西秀治、板垣麻衣子)

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