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「徳パンク」、新星の予感

2017年10月29日

 人間の善行……功徳からエネルギーを生み出すことに成功した人類は、徳エネルギーによる理想社会を築こうとしていた。だが突如として起こった徳エネルギーの暴走……徳カリプスは人類の7割を一瞬で解脱させ、徳エネルギー文明を滅亡させてしまう。アフター徳カリプス14年。生き残った人々は、全人類を強制解脱させようとする自律機械・得度兵器におびえつつ、旧文明の遺産に頼ってかろうじて生をつないでいた。……いきなり何を言い出したのかと思われそうだが、これが碌星(ろくせい)らせん『黄昏(たそがれ)のブッシャリオン』の世界観だ。
 SFにはサイバネティクス技術が高度に発達した未来を描くサイバーパンクというサブジャンルがある。ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫)を代表作に、日本発の作品でも『攻殻機動隊』などが現在も人気だが、さらにここからいくつものサブジャンルが生まれたことでも知られている。たとえば高度に発達した蒸気機関文明を描くスチームパンクなどだ。そして本書『黄昏のブッシャリオン』といえば、徳パンク……つまりは仏教版サイバーパンクである。
 ガンジーとクーカイなる徳ネーム(徳を高めるため歴史上の偉人にあやかった名前)をもったふたりの採掘屋が廃虚となった古寺をあさり、徳エネルギーを生み出す徳ジェネレータの「燃料」となるソクシンブツ……徳の高い僧侶の遺体を発見して、ハイタッチ、という冒頭から始まって、野生化して人を襲う大仏、仏舎利を動力源としたサイボーグ・舎利ボーグと次々に冗談めいたガジェットが登場するが、語り手はあくまでも大真面目。半笑いで読んでいる読者を、いつしか奇天烈(きてれつ)な世界の虜(とりこ)にする力がある。
 『ニューロマンサー』の物語が未来の千葉から始まったように、実はサイバーパンクは日本とも関わりが深い。古橋秀之『ブラックロッド』(電撃文庫)やブラッドレー・ボンド、フィリップ・ニンジャ・モーゼズ『ニンジャスレイヤー』(KADOKAWA)など東洋とサイバーパンクの組み合わせも多くの名作を生んできた。本作と碌星らせんは、そうした伝統を受け継ぐ期待の新星になってくれそうだ。(ライター)



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