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「女性の活躍」って 「仕事も家庭も」の理想と現実

「すべての女性が輝く社会づくり本部」の会合=6月、首相官邸

 「女性活躍」は言葉としては定着した感がある。だが、内実はどうだろう。「一時期の流行」として消費され、飽きられてしまわないか。「女性活躍」の理想と現実を読み解くための書籍を紹介したい。
 まず、女性活躍界の世界的エース、米フェイスブック最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ『LEAN IN』だ。仕事で成功し、理解ある夫との間に2人の子どもがいて……という、絵に描いたようなキャリアウーマンの彼女が説くのは、タイトル通り、女性が「一歩前に踏み出す」勇気。子どものころから男性より一歩引いた人生を求められる女性は、自己評価が低い傾向があり、彼女もかつてはそうだったという。それでも問う。「怖がらなければ何ができる?」と。
 キャリアは「ジャングルジム」。てっぺんに到達する道は無限だ。若い女性は妊娠出産を気にして、仕事をペースダウンしがちだが「子育てのために仕事を辞めるのはその必要ができたとき」だし、子どもへの罪悪感は、マネジメントして行こう。ウィットに富む言葉の数々は、勇気づけられるものばかりだ(その後、夫が急死。人生の変化は近刊『OPTION B』〈日本経済新聞出版社〉に)。

トップの経験

 だが「その必要ができたとき」、トップを走る女性はどう決断すれば良いか。オバマ政権のヒラリー・クリントン国務長官の下で、女性初の政策企画本部長を務めたアン=マリー・スローターは、「そのとき」を迎え、政府の要職をあきらめた。その経験から書いた『仕事と家庭は両立できない?』で、サンドバーグの主張は分かるとしながら、生活が破綻(はたん)した様を綴(つづ)る。「行っちゃいやだ。アメリカがどうなっても知るもんか!」と息子に叫ばれたりしながら自宅を後にする日々……。
 実は子どもが幼いときより、思春期のほうが大変だ、とスローターは語る。単なるお世話では済まない、「母親」が必要になったときに迫られる究極の選択だ。トップを目指すときパートナーは、自らの仕事を犠牲にしても応援してくれる人でなければ難しい。彼女の夫は「理想的」というが、それでも超えられない壁に突き当たったら?

育児や介護は

 この問題は、男女問わず「仕事と家庭の両方の責任を持つ人たちは、キャリアの面で妥協を強いられ、代償を支払って」きたということだ。これまでは「女性の問題」と矮小(わいしょう)化され、解決が図られなかった。だが今後は「育児や介護をする人」の問題として再考する必要があるとの主張は、超少子高齢化が進む日本にとり、極めて重要だ。
 日本とは事情が違う、と思う読者には『仕事と家族』がお薦めだ。米国とスウェーデンという「女性活躍」のあり方が正反対な国と、日本との比較対照を軸に詳解している。米国のように育児休業制度が未整備な「小さな政府」と、スウェーデンのような公的部門での女性雇用が厚い「大きな政府」。性格は対照的だが、共働きしやすい環境が整備され、女性の社会的地位向上と高い出生率の維持が両立できた。他方、日本やドイツは男性稼ぎ手モデルを維持したことが、少子化を進めたという。
 日本企業での働き方には、「勤務地・職務内容・労働時間」の「三つの無限定性」があり、家庭責任との両立は不可能だ。さらに、家族の相互扶助に期待するあり方はケアワーク負担の重さから家族をつぶしかねない。家族が担ってきた負担の外部化により、介護不安などを軽減する効果が見込まれるという。
 3冊に共通するのは「女性活躍」は、女性だけの問題ではなく、就労とケアワーク再編の必要性を訴えている点だ。「働き方改革」というならば「暮らし方改革」もまた同様に必要なのだ=朝日新聞2017年11月5日掲載