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奥瀬サキ「流香魔魅の杞憂」 「口寄せ」の謎解き、無常の風ほろ苦く

流香魔魅の杞憂(1) [作]奥瀬サキ

 ページをめくると、鮮やかな黒の引き立つ画面に、まず目を奪われた。不思議なムードの中に、静かな深みを感じさせる。
 主人公はいわゆる「口寄せ」。死者の残した痕跡や遺留品などから彼らの記憶をたぐり、声を聞き出す特殊な力を持つ。宗教的な活動はせずに、もっぱら損害保険の調査業務を請け負い、さまざまな事件の謎を解いていく。いわばサイキックな探偵ヒロインの事件帳シリーズだ。
 毎回、欲望や憎悪、苦悩などのからむ事件の真相が彼女の手で明らかにされていく。が、どうしても行き場のない思いが後に残る。そもそも手がかりの声を発する者は、すでにこの世にいないのだから、たとえ謎が解明されても、取り返しようがない。事件は、いつも手遅れという形でしかやってこないのだ。
 シャープで緻密(ちみつ)な絵が、風景の中に無常の風を吹かせ、そんなほろ苦いドラマを描き出す。著者は長いキャリアを持ち、この主人公の活躍も昔からシリーズで描かれてきたが、デジタル環境に移行する中で新たな画風を作り上げ、新境地を獲得したようだ。
 絵の黒いベタの中から、妖しさや寂しさが伝わってくる、魅力的な世界だ。=朝日新聞2017年11月19日掲載