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少年少女のあまりに淡い恋

2017年11月26日

 難関の進学校に入学したものの、微妙に高校デビューに失敗した郷津香衣(ごうづかい)は、「残念な美少女」峯村セリカを唯一のベントモ(=弁当と便所の時に一緒になる友人)に、学業に追われていた。そんなある日、好きな人ができたとセリカがとある名前を口にする。それは香衣が中学時代に付き合っていた、そして今も付き合っているのかもしれない男子生徒の名前だった。
 『6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。』は昨年デビューした新鋭・大澤めぐみの新作だ。デビュー作『おにぎりスタッバー』(角川スニーカー文庫・648円)は、「男食いまくってる」せいで売春疑惑をかけられた女子高生・アズをヒロインに、魔法少女やらエクスカリバーやらおにぎりやらが次々登場する混沌(こんとん)とした世界観を、けれども爽やかな青春小説にまとめ上げた怪作にして快作だ。姉妹編の『ひとくいマンイーター』(同・670円)に続き、そんな著者が送る新たな一冊は、デビュー作とうってかわり、超常的な要素を一切排し、長野県を舞台にした群像劇となっている。
 優等生の香衣、サッカー部のエース・隆生(たかお)、学年唯一の不良・龍輝(りゅうき)、そして残念美少女のセリカ。同じ学校に通う以外まったく異なる個性を持った高校生4人は、日常の中でそれぞれの役割を演じつつ、人には言えない葛藤を抱えている。視点が変わるごとに、彼ら4人は異なる一面を見せながら、恋と別れの3年間が過ぎていく。
 本作が描くのは、気づかぬうちに終わってしまったり、ともすれば終わって初めて気づいたりといった、あまりに淡く捉えどころのない恋だ。もしかしたら当人ですら、うまく言葉にできない少年少女の揺れ動く胸の内を描き出すのは、著者ならではの特徴的な文体だ。軽妙なユーモアを交えつつ、長野に暮らす高校生たちの日常を過剰なほどのディテールで語り続けたと思いきや、まるで不意打ちのように切実なモノローグを展開し読み手の胸を打つ。
 あるいは本書は、主人公たちと同じ10代より、すでに高校時代が過去の物となってしまった読み手にこそ突き刺さるかもしれない。広い世代に読まれてほしい作品と書き手である。(前島賢)

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