ひもとく

女子の居場所 人の数だけ正解がある トミヤマユキコ

2018年01月28日

『プリンセスメゾン』から (C)池辺葵/小学館 やわらかスピリッツ連載中

 人生なにもかも行き詰まっていた20代後半に、マンガを読み始めた。当時のわたしは、研究することから逃げ出した大学院生であり、仕事のないライターだった。無気力すぎて一日中パチンコ屋にいたこともある。そんなわたしを救ってくれたのが、それまでほとんど読んでこなかった少女マンガ(および女性向けマンガ)だった。

■マンガが映す心
 なぜ少女マンガに救われたのか。それは、わたしたちに「あなたはこの世界にいてよい人である」ということを、めちゃくちゃわかりやすく説いてくれるから。強い人間にも、弱い人間にも、きっと居場所はある。その見つけ方を一緒に考えようよ。そんなメッセージを(勝手に)受け取ったわたしは、みるみる元気になっていった揚げ句、マンガ研究者になってしまった。
 マンガ研究が専門で明治大学国際日本学部教授の藤本由香里さんが『私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち』(朝日文庫・品切れ)で指摘するように、少女マンガは、女子の居場所をめぐる物語群として読むことができる。そして、それは、時代とともにアップデートされている。ものすごくベタな少女マンガしか知らない人は、「愛する人の隣」こそが、ヒロインの居場所だと思うかも知れないが、そうではない所にも居場所はある。というわけで、以下、わたしのお気に入り作品を紹介していこう。

■80歳でやり直し
 池辺葵『プリンセスメゾン』は、年収270万円ほどの居酒屋店員「沼ちゃん」が、女ひとりでマンションを購入する話。マンション購入に踏み切る独身女性に対する世間の目は、お世辞にも温かいとは言えないわけだが、沼ちゃんはそんなこと歯牙(しが)にもかけない。「まずは自分の人生をちゃんと自分で面倒みて、誰かと生きるのはそのあとです」——現代のシンデレラは、白馬に乗った王子さま(豪華なお城付き)を待たない。小さくても、自分で自分の城を買うのだ。
 おざわゆき『傘寿まり子』では、80歳のおばあちゃん小説家「まり子」が、自分に対する家族の無関心を悟り、家出して人生をやり直すことに決める。人並みに結婚をし、子どもも孫もいて、仕事だってちゃんとやってきた……のに、家に居場所がない。この報われなさと孤独感を、まり子は家出によってどうにかしようとする。
 ネットカフェに寝泊まりしたり、若い頃好きだった人と同棲(どうせい)したりするけれど、今のところ、定住できる場所は見つかっていない。がんばれまり子。80歳でも、自分の居場所を必死で探し求めるまり子は、少女マンガのヒロインに相違ない。
 沼ちゃんもまり子もかなり行動力のあるヒロインだが、関根美有『白エリと青エリ』の高校生「エリ」は、家にいる大人たちを通して、居場所探しをする。
 大家族の末っ子であるエリは、バリバリのキャリアウーマンから専業主婦に転身したお母さんや、料理人をやっているお兄ちゃんなどにインタビューしまくり、仕事を通してこの社会に居場所を見つける方法を聞き出していく。家族だからといって、みんな同じ仕事観をもっているわけではないし、居場所の見つけ方だってさまざま。ありていに言ってしまえば、正解などないということになるのだが、エリは、正解をひとつに絞り込めない不安ではなく、人の数だけ正解があることの喜びを見つめている。
 あなたにも、居場所についての悩み、苦しみはきっとあるだろう。そんな時は、少女マンガが効く。そのことを心の片隅に留めておいてくれたら嬉(うれ)しい。

    ◇
 トミヤマユキコ 早稲田大学助教(少女マンガ研究) 79年生まれ。著書に『大学1年生の歩き方』(共著)など。

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