ひもとく

働き方を考えよう 勇気ある抵抗は、社会の財産 嶋崎量

2018年04月07日

働き方を学んで自分を守る「ワークルール」の検定会場=2014年、大阪市

 この季節、新入社員だろうか、街中でリクルートスーツが目立ち、学生生活のスタートと同時にアルバイトを始める大学生も多い。多くの若者が「働く」ことに直面する時期だ。
 初々しい姿をみて心配になるのは、私が労働弁護士として、命さえ奪われる若い労働者と向き合っているからだろう。近年、働き始めて数年のうちに、長時間労働やパワハラ等の劣悪な職場環境が原因で、精神疾患発症や自死にまで至ってしまう案件にたくさん接してきた。
 大学在学中に若者の労働相談を受けるNPO法人「POSSE(ポッセ)」を立ち上げた今野晴貴は、著書『ブラック企業』で、若者を使い捨てにする「ブラック企業」を告発し、大きな社会問題となった。使い潰されるのは労働者の自己責任ではなく企業側の責任であること、若者個人に牙をむくだけでなく社会全体に被害が及ぶ問題だと指摘した。
 単なる社会問題の啓発ではない。今野は、ブラック企業に入らないための見分け方に終始せず、社会全体がブラック企業撲滅に取り組む必要があることや、若者自身が職場を変えていく力を持つことの重要性を説いている。「逃げ続けてもブラック企業はなくならない」のだ。

■歪みに気づけば

 その後、奨学金制度改善に取り組んできた大内裕和が「ブラックバイト」という言葉を編み出した。大学教員の大内は、親元からの資金援助に頼れない学生が、学生生活継続のためにアルバイトに縛られ、学業に支障をきたす様子に向き合って『ブラックバイトに騙(だま)されるな!』を書いた。さらに大内は、ブラックバイトに慣らされた学生は企業の労働の歪(ゆが)みに気付かなくなることから、ブラックバイトがブラック企業と連動した、社会全体の問題であることもあぶり出す。
 重要なのはワークルール教育だ。『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(石田眞ほか著・旬報社・994円)は、学生が直面する実務的な問題を分かりやすく解説する。難解な法解釈論ではなく、現実に即した法律の使い方を学ぶ必要があり、その点への配慮も行き届いている。

■労組も相談先に

 私が若者にワークルール教育をする際のテーマは「脱条文主義」だ。今野(『ブラック企業2』)も「法律よりもマインド」と強調する。法律知識だけでは若者に抵抗する力は身につかない。例えば、残業代のルールを知っていれば残業代が取り戻せるわけではない。権利を主張したくても躊躇(ためら)うのは自然な姿だ。だから、例えば今野は「労働法の権利行使は、『社会人としてのマナー』」だと考えることを薦める。
 とはいえ、若者が自力でトラブルに対処するのは難しい。「ブラック企業」被害者は、自己責任論にからめとられて問題を抱え込み、被害が拡大しがちだ。ワークルール教育では、自分を責めず、早めに専門家に相談することも強調して欲しい。
 その際、最も大切な相談先は労働組合だ。弁護士の笹山尚人は『ブラック職場』で、ワークルール教育において「労働者が抵抗力をつける」ことの重要性と困難さを指摘し、抵抗するために「労働組合」の存在を強調する。残念ながら、現在は若者の間で労働組合に対する認知度が高くはないが、ワークルール教育の進展により、労働組合の認知度も人気も上がるはずだと期待している。
 雇い主に勇気を持って抵抗できる若者が増えれば、変わるのはその職場にとどまらない。職場で抵抗する力を身につけた若者は、いまある不正への対処も含め、主体的な振る舞いが期待できる。職場で抵抗する力は、社会全体の活力や財産にもなると確信する。

 ◇しまさき・ちから 労働弁護士 75年生まれ。共著に『ブラック企業のない社会へ』など。

関連記事

ページトップへ戻る