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「赤紙と徴兵」書評 狡猾、非情なシステム明らかに

赤紙と徴兵―105歳、最後の兵事係の証言から [著]吉田敏浩

 「皇軍の兵士」はいかにつくられたか、その非情なシステムを一兵事係の残した記録をもとに分析した書である。末端の町村でその役割を果たすことを余儀なくされた職員の苦悩、それは戦時下だけでなく、戦後もなお続くのだが、著者はそこに寄り添って記述を進めている。それゆえ本書には、無味乾燥ともいうべき文書の背景に、兵士たちの肉声が幾重にも宿っている。
 一体に昭和の軍事主導体制そのものは、狡猾(こうかつ)かつ巧妙にできあがっている。兵事係は召集の赤紙を届けるだけでなく、兵士としての資質、技能についても平時から調べあげているし、召集兵の戦死報告の役も担わされる。赤紙が届いた家には「おめでとう」の声が共同体の挨拶(あいさつ)という時代、「人間」が歪(ひず)むのは当然だ。兵事係は兵役を免れるがゆえに、兵事業務に熱心になるからくりも証言で浮かぶ。
 捕虜を恥じての自決、召集猶予者のリスト、志願兵割り当ての仕組み、著者の怒りは昭和軍閥研究の原点である。
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 彩流社・2100円