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池澤夏樹「終わりと始まり2.0」書評 暗い予感に抗するには

評者: 齋藤純一 / 朝⽇新聞掲載:2018年06月16日
終わりと始まり2.0 著者:池澤夏樹 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784022515445
発売⽇: 2018/04/06
サイズ: 19cm/254p

「終わりと始まり2.0」 [著]池澤夏樹

 本書は、本紙に毎月掲載されているエッセイを集録したものである。
 「我々は排除と独占と抗争の世界の入り口で戸惑っている」と著者は見る。震災、原発、憲法、沖縄、対米関係、難民、資本・市場といった再現するテーマもこの現状認識に沿っている。
 ある地域を「差別待遇する」国家の権力、自ら栄えて「民を滅ぼす」法人の権力、そして私たちの行動をそれと知られることなく捕捉し、方向づけるビッグデータの権力……。
 こうした権力の作用を野放しにすまいと行動する人は世界各地にいるし、日本にもいる。著者は、「ロックオン」など抗議を示す具体的方法にも触れる。だが、そういう人々や行動はまだ十分なものには達していない。
 「排除と独占と抗争」への入り口から引き返すだけの叡智や力は得られるのか。暗い予感に抗して、すでにあるかもしれない数々の「始まり」を著者とともに探りたい。