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「ビットコインはチグリス川を漂う」書評 取引履歴の透明化で時代回帰?

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年07月07日
ビットコインはチグリス川を漂う マネーテクノロジーの未来史 著者:デイヴィッド・バーチ 出版社:みすず書房 ジャンル:金融・通貨

ISBN: 9784622086949
発売⽇: 2018/05/17
サイズ: 20cm/305,14p

ビットコインはチグリス川を漂う マネーテクノロジーの未来史 [著]デイヴィッド・バーチ

――自販機にて。
孫娘「おばあちゃん、それ1円玉だよっ」
祖母「おや、そうかい。ほれ100円、天然木瓜水、頼むよ。ときにおまえ、小銭の大問題、知っとるか」
孫娘「えー、なにそれ?」
祖母「やれやれ、それでも経済学部かね。1円玉1コつくるのに2円以上かかる。国は小銭をつくればつくるほど損をする。運んだり数えたりするのにも、めっちゃコストがかかる。いったい誰得? ヨーロッパじゃ中国マフィアが偽造硬貨を大量搬入して……」
孫娘「おばあちゃん、話、長い。行くよ」
――改札口にて。
孫娘「おばあちゃん、それ1万円札だよっ」
祖母「おや、そうかい。ほれ千円札、西瓜にチャージしとくれ。ときにおまえ、お札がなんで必要なのか知っとるか」
孫娘「だって小銭じゃ、数えるのたいへんでしょ」
祖母「やれやれ、それでも経済学部かね。悪いヤツらを助けるためさ。アメリカの100ドル紙幣のほとんどは海外で汚職や麻薬のブラックマネー化しとる。脱税も洗濯もしほうだいの現金なんぞ、さっさと廃止して、ビットコインみたいに、きちんと履歴が追える通貨を採用すれば、よっぽどクリーンな社会が……」
孫娘「おばあちゃん、話、長い。電車来ちゃうよ」
――宝石店にて。
孫娘「おばあちゃん、それ診察券だよっ」
祖母「おや、そうかい。ほれ錆(SAVI)カード。遅れてるねえ。ケニアじゃ、もう96%の家庭がケータイでのモバイル決済じゃ。小銭もお札もカードも銀行もグッバイ。ネット上で個人が自由にデジタル通貨を発行できる時代が……」
孫娘「おばあちゃん……」
祖母「テクノロジーの進歩でマネーに大変革が起きる。取引履歴の透明化で信頼関係が結びやすくなり、なんと、知人どうしで物々交換してた新石器時代へと回帰してゆくのじゃよ。この本で勉強しな」(スッ)
    ◇
 David Birch 電子取引の助言などを行うコンサルト・ハイペリオン社取締役。電子マネーの国際的権威。