「〆太よ」書評 落伍者や少数者の哲学
評者: 佐伯一麦
/ 朝⽇新聞掲載:2018年07月21日
〆太よ
著者:原田 宗典
出版社:新潮社
ジャンル:小説
ISBN: 9784103811077
発売⽇: 2018/05/31
サイズ: 20cm/244p
〆太よ [著]原田宗典
一気に読んだ。他ならぬこの本自体が、そう読まれることを欲しているからだ。麻薬中毒である主人公の饒舌な内面を描くのに、〈自分は多数派に属しているからと思って安心してるなんてお笑いだねそんなもの単なる幻想に過ぎない多数派なんてありえないんだ〉と、著者は句読点を極度に省き、3、4文ほどのつながりでセンテンスとなる文体を駆使する。そのリズムが効果的で、不思議と古文的な趣も感じさせる。
主人公の設定に瞭かなように、行儀のよい物語ではない。だが、盲人を友人とし、目をつぶって黄色い点字ブロックを辿ってみる精神を持つ彼は、つんのめったりよろめいたりしながらも、落伍者や少数者の哲学をしっかりとつかみ持つ。阪神淡路大震災やオウム事件に揺れた1995年前後が舞台となった本作の帯には、〈構想20年〉とある。同じ時代の空気を吸ってきたことを感じさせる青春小説の名手の本格的なカムバックが何よりうれしい。