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「文学という出来事」書評 文学の定義はありうるのか

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年07月28日
文学という出来事 著者:テリー・イーグルトン 出版社:平凡社 ジャンル:文学論の通販

ISBN: 9784582744316
発売⽇: 2018/04/27
サイズ: 22cm/359p

文学という出来事 [著]テリー・イーグルトン

 〈文学理論は、ここ二十年で、かなり流行遅れとなった〉。わっ、いきなりこれだもんね。彼がいう文学理論とは、1970年代、80年代に一世を風靡した記号論やポスト構造主義やマルクス主義や精神分析などのこと。イーグルトン自身が『文学とは何か』(邦訳85年)で論じ、読者を洗脳した諸理論である。
 代わって登場したのはポストコロニアリズム、エスニシティ、セクシュアリティ、カルチュラル・スタディーズの「カルテット」だったといいつつ、彼はそっちには行かない。本書が対象とするのは「文学の定義はありうるのか」という、雲をつかむようなテーマの堅苦しい議論である。
 文学を構成している、虚構的、道徳的、言語的、非実用的、規範的という五つの要因をいちいち丁寧に検討する。文学理論ならぬ文学哲学と呼ぶのだそうだ。
 カジュアルな文学理論に対するスーツを着た文学哲学。とっつきの悪い本だけど皮肉な物言いは健在。