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秀吉の朝鮮出兵、二つの物語出現 朝日新聞読書面書評から

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月18日
天地に燦たり 著者:川越 宗一 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説

ISBN: 9784163908700
発売⽇: 2018/07/06
サイズ: 20cm/349p

星夜航行 上巻 著者:飯嶋和一 出版社:新潮社 ジャンル:小説の通販

ISBN: 9784103519416
発売⽇: 2018/06/29
サイズ: 20cm/533p

天地に燦たり [著]川越宗一/星夜航行 [著]飯嶋和一

 天地くんと星夜くんが、韓(から)の国で出会いました。
天地「わ~お」
星夜「びっくりしたあ」
 驚くのも無理はありません。人気スポットの本能寺や関ケ原なら、いざ知らず、ここは波濤を隔てた朝鮮半島、しかも太閤秀吉の出兵の真っ最中と場所も時代もどんぴしゃ同じポイントに、ふたり同時に出現したのです。
天地「すんごい奇遇だね、交信しよう」
星夜「うんっ」
 ふたりは栞の紐をからませ、お互いの内容を読み合います。
天地「うっわー。星夜くん、なにこれ。いきなり1100ページ、固有名詞の大洪水! 李如松・沈惟敬・松雲大師、明の武官文官に朝鮮の義兵に日本の大名や豪商や、果ては降伏して朝鮮側で戦った降倭隊の将星にいたるまで。あとからあとから多すぎて理解が追っつかないよ。待って待って」
星夜「あわてないで。呼吸を整えて、ゆったりと作品のなかを泳ぐんだ。自分が大きな歴史の一分子と化して、壮大なうねりに揺られている心地になってくる。歴史を我がことのように体感するための、ご主人さま独特の仕掛けさ。ここでしか味わえないよ」
天地「ほんとだ。主人公は甚五郎さん、もと三河武士、いま海の商人。この甚五郎星は北極星みたいにどっしり動かないんだけど、まわりの星や星団の明滅がめまぐるしいね」
星夜「夜空の花火みたいに」
天地「そうそれ。つぎつぎに個性を輝かせては消えてゆく。そんななか甚五郎さんの祝言は『一緒に博多へ来るか』、たった2行だ。あ、本能寺の変も2行で終了。軽重問わずに史実を並べ立てた史書みたい。だから固有名詞に酔えるのかも。おっもしろいなあ」
星夜「天地くんのほうは、三連星の仕立てだね。島津の侍大将と朝鮮の下層民と琉球の密偵。国もバラバラ、遠く離れた軌道上にあったのに、戦雲に巻かれてじわじわ近づいて、さいごは三連星として引かれ合う。凝ってるねえ。これが初めての作品なんだって?」
天地「うん、松本清張賞受賞のデビュー作。セリフがカッコいいでしょ。『阿呆は見たものを見たままにしか言えない』なんて、使ってみたいよね」
星夜「ぼく、琉球密偵の真市さんの飄々とした所作が、すごい好き。うちに来てくれたら、ちょっと堅苦しい場面にも、涼やかな風、吹かせてくれそう」
天地「じゃあ、替わりに人間羅針盤の加次良じいちゃんを貸して。呂宋に行きたい」
 おやおや、登場人物の取り替えっこですか。新しい楽しみが広がりそうですね。
    ◇
 かわごえ・そういち 1978年生まれ。作家。▽いいじま・かずいち 52年生まれ。作家。『出星前夜』で大佛次郎賞。▽両作ともに、豊臣秀吉の朝鮮出兵をめぐり、東アジアを舞台に展開する歴史小説。