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「なるべく働きたくない人のためのお金の話」書評 「当たり前」の生活を考え直す

評者: 宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月25日
なるべく働きたくない人のためのお金の話 著者:大原 扁理 出版社:百万年書房 ジャンル:生き方・ライフスタイル

ISBN: 9784991022128
発売⽇: 2018/07/03
サイズ: 19cm/191p

なるべく働きたくない人のためのお金の話 [著]大原扁理

 毎日ちゃんと働いているのに、お金が足りない。収入のほとんどが高い家賃に消えていく。生活するだけのためになぜこんなに働かないといけないのか。
 そう考えた著者は思い切って仕事を辞め、ミニマムな生活にトライする。
 そうして東京で週休5日、年収100万円以下で6年間暮らすのである。これが案外快適だったというから、勇気付けられる。とにかくやりたくないことからは逃げる、完璧にやろうとしない、周りを納得させようとしないなど、考え方や心の持ち方次第で、世界は変わっていく。
 著者は言う。自分で確かめたこともないのに当たり前と思っていることはないか、注意深く探してみることだと。
 誰もが生き方を模索している現代、こうすれば儲かるといった類のビジネス書を読んで鼻息荒くする人もいれば、このようなミニマムな暮らしに癒やしを求める人もいる。自分はどのように生きるのかと、常につきつけられる面倒くさい時代になった。普通に働いていれば過不足なく生きていけた時代が懐かしいけれど、不平を言っていてもしょうがない。われわれは生きていかねばならない。
 面白いのは、多くの「こうすれば儲かる」本と「ミニマムな暮らし」本の間に共通点があることだ。それは、人生のほとんどをお金を稼ぐことに費やすのが、本当に「まともな人生」なのかという疑念である。
 つまりわれわれはみんなもうこんなガチガチに働きたくないと思っているらしい。働かざる者食うべからずだとか、自己責任だとかいうけれど、働いている人すら厳しい世の中っていったい何なのか。われわれはどこまで自分を責め続けなければならないのか。
 そう考えると、著者の、自分で確かめたこともないのに当たり前と思っていることを探せ、という指摘は重要だ。それこそが自分自身の生活を考え直すヒントなのである。
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 おおはら・へんり 1985年生まれ。著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』『年収90万円で東京ハッピーライフ』。