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『炭鉱と「日本の奇跡」』書評 炭鉱に眠る文化的鉱脈

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月25日
炭鉱と「日本の奇跡」 石炭の多面性を掘り直す 著者:中澤秀雄 出版社:青弓社 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784787234384
発売⽇: 2018/07/12
サイズ: 21cm/213p

炭鉱と「日本の奇跡」 石炭の多面性を掘り直す [編著]中澤秀雄、嶋﨑尚子

 そりゃあ軍艦島は観光客を集めてますよ。が、炭鉱のイメージは概してよろしくない。「危険すぎる重労働」「忘れたい負の記憶」「新しいエネルギーに敗れた負け組の産業」
 しかし産業としての炭鉱は終わっても歴史は続く。新たに掘り起こすべき文化的、歴史的な鉱脈がそこには眠っているんです。
 新幹線の長大なトンネルを掘る技術は炭鉱で培われた掘削・保安技術の賜だし、その技術は中国やベトナムで継承されている。どんな産業より早く1950年代にピークを迎え、高度経済成長期に閉山に追い込まれた炭鉱町は、脱工業化に直面し、産業の転換を余儀なくされた今日の町々の先輩格。旧産炭地の格闘の歴史から学べるものは多いはずだし、生活者のネットワークや労働組合が強かったのも炭鉱だった。
 産炭地研究会の研究者たちによる入門者向けの論文集。産業遺産観光のさらに先に進みたいみなさまの、カンテラとしてどうぞ。