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「マンモスを再生せよ」書評 最先端科学の興奮と疑問、満載

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月01日
マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦 著者:ベン・メズリック 出版社:文藝春秋 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784163908793
発売⽇: 2018/07/23
サイズ: 20cm/301p

マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦 [著]ベン・メズリック

 ゾウは動物園の人気者だが、ゾウに近縁で、もっとわくわくする動物がかつて存在した。先述のゾウの特徴に加えて、全身がふさふさの毛でおおわれたマンモス。いくつかの種類がいたが、ケナガマンモスは、肩の高さが5メートル強。最後の個体群は、およそ3千年前に絶滅した。
 最近の生物学の進展はめざましい。ある生物のDNAの全配列を解読する、その中の一部を人工的に編集するなど、ほんの数十年前には考えられなかったことが次々にできるようになった。あまり古くては無理だが、大昔に死んだ生物からDNAを取り出し、配列を決定することもできる。
 本書は、こんな最先端の技術を駆使して、マンモスを再生しようとするプロジェクトに関するノンフィクションである。
 マンモスに固有の配列を見つけ出し、アジアゾウの配列を改変してマンモス仕様にする。そうして作ったマンモスの胚を育てれば?
 主人公は、マンモスもどきにもじゃもじゃの毛を生やした、ハーバード大学医学部教授のジョージ・チャーチ。彼は、遺伝子工学、合成生物学という新分野を先導する巨星だ。
 そして、極寒シベリアのチェルスキー北東科学センター所属のセルゲイとニキータ・ジモフ父子。シベリアの永久凍土は、地球温暖化の影響でどんどん溶け、大量のメタンを放出している。これを食い止めるには、かつての草原生態系を再生するほかない。そのためには、マンモスに再登場願って、ジュラシック・パークならぬ、氷河期パークを造るのだという構想だ。
 温暖化阻止の大義と、マンモス再生の最先端科学技術、そしてそれに資金提供しようというお金持ちたち。彼らが出会い、夢を共有することで、マンモス再生のプロジェクトが始まった。
 でも、こんなことしていいのかね? 今の科学の最前線にある興奮と希望と恐れと疑問がぎっしりだ。
    ◇
 Ben Mezrich 1969年米国生まれ。ノンフィクション作家、小説家。『ラス・ヴェガスをブッつぶせ!』など。