呉勝浩「マトリョーシカ・ブラッド」書評 警察舞台に「誤りの入れ子構造」
評者: 長谷川眞理子
/ 朝⽇新聞掲載:2018年09月08日
マトリョーシカ・ブラッド
著者:呉勝浩
出版社:徳間書店
ジャンル:小説
ISBN: 9784198646530
発売⽇: 2018/07/21
サイズ: 20cm/430p
マトリョーシカ・ブラッド [著]呉勝浩
薬害による死亡事件とその隠蔽。それが話の中心だが、5年の時間をおいた連続殺人事件は、さまざまな人々の愛憎がからまって複雑に展開する。
警察官という職業は難しい。悪を暴いて世に正義をもたらすというのは大義名分。実際の現場では、権力闘争あり、他県との意地の張り合いあり、上の都合でもみ消されるものあり。この矛盾に直面して、自分が正しいと思うことをどうやって貫くか。「一筋縄ではいかない警察小説」と帯にある通り、その葛藤がよく描かれている。
誤りがない、という大前提をもって信頼されている組織なんておかしい。だから、誤りを隠そうとする隠蔽体質が生まれるのだ。
人間に誤りは必ずある。そこから出発すべきなのだ。それを隠そうとするとまた別の誤りを導くことになり、と誤りの入れ子構造になる。事件の手がかりの一つであるマトリョーシカは、それを象徴している。