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「宮中取材余話 皇室の風」書評 皇室取材30年の記者が見た天皇

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月29日
皇室の風 宮中取材余話 著者:岩井克己 出版社:講談社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784065123058
発売⽇: 2018/07/22
サイズ: 19cm/648p

宮中取材余話 皇室の風  [著]岩井克己

「象徴天皇とは何者か」
 学問の各分野で発せられてきたこの問いは、「今も解を求めてさまよいつづけているのではないか」と著者は見る。戦前、戦後の二生を持つ昭和天皇、はじめから象徴天皇として出発した現天皇、この転換についての分析を「解」の鍵として論証する。
 著者は皇室記者歴30年に及ぶが、その間に見聞した皇室内部を折々に記事にしている。この書は月刊誌の2008年9月号から18年5月号までの連載をまとめたものだが、見聞を歴史的、学問的に整理している点で、類書にはない独自の天皇論をつくりあげている。昭和天皇の退位についての侍従長の見識、秩父宮の葬儀に触れつつ、宮中祭祀の相対化が進むだろうとの予測、災害時に現天皇が自らの病をおして被災地を巡幸する「鬼気迫る姿」など、国民が知るべき皇室の史実がいくつもある。皮相部分での議論の軽薄さが浮き彫りになる点で、本書の果たす役割は大きい。