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『タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る』書評 SF、哲学…架空話てんこ盛り

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月06日
タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る 著者:ジェイムズ・グリック 出版社:柏書房 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784760149858
発売⽇:
サイズ: 19cm/445p

タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る [著]ジェイムズ・グリック

 読者のみなさんは、「タイムトラベル」という言葉を聞いても違和感はないだろう。タイムマシンに乗って過去や未来に旅するという話は想像できる。
 しかし、人々がそんなことを普通に想像できるようになったのは、実はごく最近のことなのだ。それはH・G・ウェルズの小説『タイムマシン』に始まった。
 背景に19世紀から20世紀になるころの劇的な変化がある。科学技術の発展は目を見張る速度で起こり、自動車、飛行機、電信、電話などなど、短い間に人々の生活が様変わりした。すると、未来は現在とは明確に異なることが実感できるようになり、未来を予想することが始まったのだ。
 本書は、人間がタイムトラベルをどのようにして思いつき、それを表現してきたかを、SF小説、哲学、心理学、物理学などの成果を駆使して考察する。が、ずいぶんと話が拡散している。読み続けても、何かの結論へ収束していくことはない。それでも、ついつい全部読んでしまうのだ。
 タイムトラベルについて考えようとすると、時間とは何かについて取り上げざるを得ない。ニュートンもアインシュタインも時間について考えた。が、それは、人間が必然的に持っている時間という概念を使って自然を描写する話だ。なぜ、そもそも人間が時間という感覚を持っているのかは、心理学、生物学の話になるのだが、そこはあまり触れられていない。
 キリスト教哲学者であるアウグスティヌスが4世紀に語った言葉、「時間とは何であろうか。誰も私に問わなければ、私はそれを知っている。だが、誰か問う人がいて、その人に説明しようとした時には、私はそれを知らない」は、言い得て妙である。
 あまたのSF小説が語るタイムトラベルは本当に可能か? 「私」が過去の「私」に出会うとどうなる? わからない架空のことのてんこ盛りがおもしろい。
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 James Gleick 1954年生まれ。『カオス 新しい科学をつくる』『ファインマンさんの愉快な人生』など。