「君は玉音放送を聞いたか」書評 草創期のラジオの貴重な証言
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2018年10月27日
君は玉音放送を聞いたか ラジオと戦争
著者:秋山 久
出版社:旬報社
ジャンル:産業
ISBN: 9784845115532
発売⽇:
サイズ: 19cm/272p
君は玉音放送を聞いたか ラジオと戦争 [著]秋山久
日本でのラジオ放送開始は、大正14年3月22日である。その発達史は昭和の戦時体制に翻弄されている。本書はそれをラジオの制作者側から浮き彫りにした。
ラジオの年度別全国受信契約数は、太平洋戦争開戦時には662万4326件に達したという。放送開始時の千倍以上に達する。受信者の激増は戦時放送への関心のほかに、戦死傷者の中に知人がいないかと耳をすます人たちも多かったからだ。敗戦の年の3月には受信件数は747万件まで増える。それは「爆音による敵機の聞き分け方」を聞いて命を守るためだった。
広島の原爆投下のラジオによる第一報は、当日の午後6時説と午後9時説があるそうだ。いずれにしても大本営発表に準じたわけだが、広島放送局は壊滅状態とはいえ、局員にはそれを調べて国民に伝える自由はなかった。このほか終戦時のクーデターの動き、占領時代の制限など多くの史実が語られる。草創期のラジオは貴重な証言者である。